介護業界最新動向12

介護業界最新動向12

本コラムでは訪問看護業界に関わる最新の動向を探っていきます。今回は訪問看護ステーションにおける熱中症対策について取り上げます。

「職場の熱中症対策」25年6月より義務化 訪問看護事業所に求められることとは

6月中旬から全国的に猛烈な暑さとなっています。熱中症と思われる症状で複数の方が緊急搬送されたり亡くなったりしています。企業でも従業員の熱中症には十分な注意が必要です。実は2025年6月より労働安全衛生規則が改正され、雇用者には「職場での熱中症対策」を講じることが義務化されました。これに違反すると、拘禁刑や罰金刑など重い処罰が課せられる可能性もあります。今回は、訪問看護事業所で必要な熱中症対策について見ていきます。

 

「熱中症のリスクのある職場」と言えば建設・土木工事現場や警備、設備保守などの屋外業務が思いつきます。しかし、それ以外の業務でも熱中症のリスクはあります。今回の規則改正では熱中症対策の義務化の必要性について、①暑さの基準②作業時間の2つの観点から定められています。①ではWBGTという暑さを示す指標が28以上または気温31度以上が条件です。②では連続1時間以上の作業または1日合計で4時間以上の作業が該当します。例えば、訪問看護でも自転車や徒歩での移動が長時間に及べば、熱中症対策義務化の対象になります。また、訪問した利用者宅が猛暑でもエアコンを付けていない可能性も考えられます。訪問時には看護師は大概マスクをしているでしょうから、仮に訪問時間が短くても熱中症にかかるリスクは高くなると言えます。

では、具体的に熱中症対策として何をすればいいのでしょうか。朝礼時などに「熱中症に気を付けましょう」「水分補給を十分にして下さい」と呼びかけるのは「注意喚起」であり「対策」とは言えません。厚生労働省が2020年から2023年の4年間に職場で発生した熱中症死亡事故合計103件を調査したところ、100件が「初期症状の見逃し」「対応の遅れ」が原因と考えられるものでした。つまり、「体調が悪くなっても周囲に言い出せなかった」「体調不良を訴えたが休憩させてくれなかった」「周囲が体調悪化に気づいたが放置していた」「倒れた後の対応(救急車を呼ぶなど)が不十分だった」など「熱中症が発生した後の対応」に問題があったのです。

また、大手信用調査機関の帝国データバンクが2025年5月に発表した、全国1,568社を対象に行った熱中症対策に関する調査の結果によれば、「熱中症対策として行っていること」では「クールビス」が70.5%、「扇風機やサーキュレーターの活用」が60.7%、「水分・塩分補給用品の支給」が55.7%など、「予防」に関しては比較的多くの企業が取り組んでいます。それに対して「熱中症に関する報告体制の構築」は15.2%、「搬送先など緊急連絡先の周知」は13.0%に留まるなど「起こってからの対策」については十分な取り組みが行われていない実態が明らかになりました。

そこで今回の規則の改正では、先に挙げた環境下で従業員が働く場合には①体調不良を報告できる体制の整備②熱中症になったときの対処(搬送・応急処置方法など)のルール・マニュアル化③それらの周知徹底、の3つが義務化されました。このうち、②については訪問看護事業所の場合は、従業員の多くが医療職であり十分なノウハウを持っています。しかし、①については「自分が訪問しなかったら、利用者が困る」などと言った使命感から体調不良をおして業務を遂行しがちであり、十分な対策が必要です。そのためには自分や同じ職場の人の体調不良を感じた場合に「誰に・どのような手段で連絡するか」を明文化し、周知させる必要があります。それと同時に「遠慮なく体調不良を申し出ることができる職場環境づくり」も求められると言えるでしょう。

まとめ

屋外を移動する時間が長い訪問看護もしっかりとした熱中症対策を講じる必要があります。特に、一人で行動する時間が長いと周囲の人が体調不良に気づく可能性が低くなります。自分自身で少しでも「体調が変だ」と感じたら、遠慮なく上司などに報告できる環境・ルール作りが求められます。また、こうした対策をしっかり行っていることが、看護師を採用していく上での事業所のアピール材料になると言えます。

 

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。

 

 

 

 

 

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