訪問看護“ここが知りたい”〜認知症訪問看護①〜

病気や障がいを持ちながらも、地域でその人らしく生活できるように支援するのが訪問看護の魅力。
しかし、日々の実践のなかでは困難な事例を経験することも多いのではないでしょうか。
「訪問看護“ここが知りたい”」では、各分野のスペシャリストに日々の実践に役立つケアのポイントやスキルを解説していただきます。

 

 

取材・監修協力
柳生 珠世さん(株式会社なごみ訪問看護ステーション)認知症看護認定看護師看護学校卒業後、新宿赤十字病院でNICUや眼科病棟を経験した後、特別養護老人ホーム緑寿園に10年間勤務。
中野区医師会訪問看護ステーション勤務を経て、2015年、管理者として土屋訪問看護ステーションの立ち上げに携わる。
2017年からなごみ訪問看護ステーション勤務。認知症カフェや家族会の立ち上げなど、地域での活動に尽力している。
日本赤十字看護大学看護実践・教育・研究フロンティアセンター認知症看護認定看護師教育課程修了。

 

認知症の利用者が増加する訪問看護。
なかでも訪問看護師にとって利用者や家族とのコミュニケーションやBPSDへの対応で困ることが多いのではないでしょうか。
2回にわたってケースをみていきましょう。

 

初回訪問時のコミュニケーション

面談時で了承しても

初回訪問時には記憶がなく……

 

訪問看護では、初回訪問の際に拒否されることがあります。

【ケース1】訪問看護の拒否

ケアマネジャーから、独居で認知症が進行した人への訪問看護の依頼。
面談で利用者本人から訪問看護利用の了承を得たものの、初回訪問時に拒否された。

認知症の人は短期記憶が失われているため、事前面談で訪問看護を了承していても初回訪問時にその記憶はなく、看護師の顔も覚えていないため、訪問を拒否するケースがあります。
こうした場合、「面談で了承を得ています。契約書も交わしています」と伝えても訪問が受け入れられるとは考えにくいでしょう。
看護師は、利用者にとって初めて会う人であり、訪問の目的もわかっていません。
まずは利用者に「怪しい者ではない」ことをわかってもらう必要があります。

 

利用者の反応を見ながら、

 

「区(自治体)からの依頼でひとり暮らしの方を訪問するように言われています」
「区から派遣されているので、費用はかかりません」

 

などと伝えて話をつないでいくこともあります。
もちろん訪問看護は自治体からの派遣ではありませんし、介護保険の利用は自己負担もあります。
しかし、費用がかかると聞くとそこから先の話ができずに拒絶されてしまうことも珍しくありません。
実際の訪問では、ひとまず、“費用がかからない”と言わざるを得ないこともあります。

 

〈訪問看護を拒否する人への対応例〉

●訪問拒否でも玄関先でアセスメント

 

・ 整容や清潔、衣服など
・ 観察できるポイント:むくみや皮膚の状態、表情、声など

 

特に初回訪問時は利用者の警戒心もあり、訪問看護の受け入れに否定的な利用者に対してストレートに「家のなかを見せてください」と言ってしまうと不審に思い、拒否が強くなることがあります。
玄関先で話を聞くだけでも、本人の身なりから清潔が保たれているかどうかを知ることもできますし、たとえば心不全の既往がある利用者であれば、足のむくみがあるかどうかをみるだけでも、服薬管理の状態を知る手がかりとなります。

 

●日常的な会話で居宅に入るきっかけを作る

 

看護師:汗を拭きながら、「今日は暑いですね。お部屋はエアコンついていますか?」

利用者:「冷房ついているからどうぞ入ってください」

⇒居宅に入ることができ、冷房設備があるかどうか、使用しているかが確認できる。
熱中症リスクのアセスメントもできる

「この情報だけは知りたい」というポイントを絞って、日常的な会話のなかから、その情報を得ることも訪問看護師にとって重要なスキルです。

認知症が進行している人でも、訪問を重ねていくうちに看護師を「見たことがある人」「いつもの看護師さん」と、認識してもらえる場合もあります。看護師が2人で訪問し、利用者が「こっちの人は何回か見たことがあるけれど、もう1人は初めて見た」という場合、その判断能力が残っていると評価することもできます。

 

経験を積んでいくと同様の事例に遭遇することも少なくありません。
必ずしも同じ対応が有効とは限りませんが、「今度はこんな話をしてみよう」「こんなふうにアプローチしてみよう」と、アイデアが出てくるようになります。

 

処置中・処置後のコミュニケーション

医療処置がない認知症の訪問看護

時間の使い方がわからない!

 

「医療処置はないが、認知症がある」人の場合、バイタルチェックだけなら5分で終わってしまいます。

残りの時間で何をどう話せばいいのかと悩む看護師も多いと思います。

【ケース2】何を話せばいいの!?

認知症はあるものの、医療処置がなく、バイタルサインの確認や服薬管理などが終わると、残りの時間でどのようにコミュニケーションを取ればよいのかわからない

 

最近は訪問看護導入時にMMSE(Mini-Mental State Examination)や長谷川スケール(HDS-R)の点数で認知症の進行度が明らかなケースも増えています。しかし、認知症の人の場合は体調の変化に気づきにくい、気づいていてもそれが伝えられないこともあります。

 

MMSEや長谷川式スケールは、「今日は何年の何月何日ですか?」と具体的な回答を求める形式ですが、普段やり慣れたはずのことができない、時間がかかるなど、日常的な会話やバイタルチェックをするなかで、短期記憶、長期記憶などの程度を観察することができます。

 

●言語以外も駆使してコミュニケーションを! 
面と向かって利用者から話を聞くと看護師は安心してしまうことがありますが、認知症の人の場合、それが全面的に正しい情報とは限りません。話を聞くとともに、「本当はどうなのか?」という客観的な視点を持つことが大切です。会話中の表情など、非言語的なメッセージはこちらが読み取ろうと意識しなければ伝わってきません。いつもと違うと感じ取ること、さらに「今日は少し元気がないみたいですが、どうしたのですか?」などと問いかけて利用者からは話を引き出していきます。利用者の話や表情を見て「何かいつもと違う」「こう話しているけれども、本当はどうなのかな?」などと看護師が感じたとき、それを表情として返すだけで反応があることもあります。スムーズに会話をすることだけがコミュニケーションではなく、非言語的なコミュニケーションからアセスメントを進めていくことで、利用者が伝えたいことが理解できることもあります。

 

●本人が関心を持っていることに着目する 
私自身も訪問看護の道に進んだ当時、何を話せばよいのかわからず、体操や脳トレをコミュニケーションのきっかけにしていたことがあります。しかし、認知症看護を学んでいくなかで「これは本当に利用者がやりたいことなのか」と考えるようになりました。
いまは、訪問看護の時間が利用者にとって楽しいものとなるように、おしゃべりが好きな人とはおしゃべりを、歌が好きな人とは一緒に歌を歌ったりすることもあります。訪問看護ではタブレット端末を利用しているケースが増えています。歌が好きな人なら動画サイトで好きな歌を探して一緒に歌うのも一案です。絵や映像などを一緒に見ながら、その人が好きなもの、関心があるものは何かを探していくなかで会話が広がります。アクティビティの引き出しを多く持つことでその人のできること、能力を引き出せるものは何かを知る手がかりが増えます。

 

●体温測定もコミュニケーションの場に 

病棟では体温測定の場面で「はい、熱をはかりますね。失礼します」と看護師がすばやく体温計を患者の腋窩に入れてしまうことがあるのではないでしょうか。

看護師は多忙な現場で働いているため、待つことに慣れていない人が多いですが、できるところは利用者に依頼してやってもらうこともコミュニケーションのひとつです。

 

利用者本人ができることは見守りながらやってもらうことで、記憶障害や認知症があっても「できない人」ではなく、「できることがある」と実感してもらうことができる。それが自信にもつながりますし、看護師が利用者を尊重していることがメッセージとして伝わります。

 

利用者のなかには「看護師にやってもらいたい」という人もいます。その場合は看護師がある程度のところまで行いますが、たとえば「ボタンを外してもらえますか」「体温計を脇に挟むのをお願いできますか」など、何か1つでも利用者自身にやってもらうようにします。看護師がお願いをしてやってもらったことに対しては「ありがとうございます」と伝えることで、利用者の満足につながります。

 

ただし、できないことを無理にしてもらうことは本人にとってストレスとなるため、何をしてもらうかを見極めることが大切です。家族が行う場合も毎回は難しいですが、「時間に余裕があるときには待ってあげてください」と伝えます。

 

認知症が進行した利用者とのコミュニケーション

言葉にならない言葉を聞き取る

反応を見て絞り込みの質問を

 

脳血管性認知症などの場合、構音障害を伴い、コミュニケーションがとりにくくなります。訪問看護でも対応に悩むケースがあります。

 

【ケース3】何を言いたいのかがわからない!
認知症が進行して構音障害がある利用者とのコミュニケーション。
何が言いたいのか聞き取れず、どう対応したらよいのかわからない。

構音障害で言葉を理解できない利用者に対し、つい笑ってごまかして対応してしまうことがあります。

大事なのは、一生懸命伝えようとしている利用者の言葉を、こちらも一生懸命「聞き取ろうとする」ことです。そのうえで、利用者が伝えたいことを推察して相手に返し、その反応からさらに絞り込んで推察し、相手に返します。

言いたかったことを理解しないまま、笑ってごまかしてしまうと、利用者は言いたいことが伝わったと思い、行動してしまうこともあるでしょう。本人は「外出したい」と伝えて〈笑顔〉で了承されたにもかかわらず、玄関に向かおうとするところを看護師が慌てて強く引き止めてしまったとしたら、混乱して怒り出すこともあるかもしれません。

言葉だけに頼らずに、目や表情からも感じとったことからもその人が伝えたいことは何かを考えて接していくことが大切です。

 

Skill Up Point!:事例を言語化することで引き出しを増やす

訪問看護は個別性の高いケアが求められる現場で、看護師はより多くの引き出しを持つことが強みとなります。

日々の看護実践では、「こういう利用者に対してこんなやりとりをした。こう考えてアプローチをしたらこういう反応があった。そこから何が得られたのか」というアセスメントを繰り返し行います。その過程を人に伝えるためには、言語化する必要があり、この振り返りを積み重ねていくことが看護師としての引き出しになります。

利用者をトータルにみてアセスメントするうえで欠かせないのが認知症看護の知識であり、利用者が合併症を抱えていればその病態や症状、治療についても学ばなければなりません。その繰り返しが自身の訪問看護力の向上につながると思います。

 

訪問看護に進む看護師の多くが、急性期病院で経験を積んでいると思います。
急性期病院では、瞬間的に動くことには慣れていますが、アセスメントを深掘りせずにケアを決定してそこに向かって動いてしまうことがあります。とくに自分の症状がうまく伝えられない認知症の人に対しては、言語、非言語的なコミュニケーションを通してしっかりとしたアセスメントのもとにケアを提供することが重要となります。

株式会社eWeLL

 

私たちは訪問看護支援システム『iBow(アイボウ)』の開発や販売、 サポートを行っております。「ひとを幸せにする」をミッションとして 掲げ、訪問看護に従事する医療関係者の皆様や、訪問看護を利用される ご利用者様のお役に立てるよう、サービスを提供しております。

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