訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#4

訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#4

本コラムでは訪問看護業界に関わる最新の動向を探っていきます。今回のテーマは介護事業者の経営状況について取り上げます。

介護事業者の経営状況悪化が深刻に

東京都と千葉県で、住宅型有料老人ホームに併設されている訪問介護事業所のスタッフが短期間で全員退職し、利用者へのサービスが提供できなくなったという事態が発生しました。両ホームの運営会社の社長は、施設の閉鎖を関係者に通告した後に連絡が取れない状況になっていることから、メディアでは「見捨てられた老人ホーム」とセンセーショナルな見出しで、大きく報じられました。

なお、ホーム入居者に訪問診療を行っていた医師の指示により、訪問看護師がボランティアのような形で入浴介護を提供するなどして、一部サービスは提供を継続できました。現在は行政の支援の元、全入居者が他の施設へ転居しています。スタッフ退職の理由は給与の未払いと見られています。関係者によると、都内のホームでは入居率が50%程度であり、今年の5月には資金繰りが悪化していたそうです。大手信用調査機関の東京商工リサーチによると、2024年上半期の介護事業者の倒産件数は前年同期比67%増の95件で、過去最多を記録しています。倒産の原因としては売上不振が75.0%であり、今後も物価高などの状況が続けば、今回のホームと同じようなケースが発生する可能性は否定できません。

 

まとめ

経営状況が悪化している高齢者住宅の場合、清掃や設備保守が不十分になる、食事の質が落ちるなどといった「予兆」が必ず見られるものです。そして、それは得てして外部の人間の方が気づきやすいものです。訪問看護師などは、入居者の命を守るためにも、異変を感じたらためらわずにケアマネジャーや行政などに報告・相談をすることが求められるでしょう。また、こうした問題は高齢者住宅に限らず、介護事業全般に言える話です。訪問看護事業者の中にも資金繰りが難しく閉鎖するところが散見されます。効率のよい訪問を行って生産性を向上させるなどして、安定した経営を維持していくことが求められます。

 

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。
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