訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#11

本コラムでは訪問看護業界に関わる最新の動向を探っていきます。今回は訪問看護事業にも影響する可能性の高い病床数適正化支援事業による病床削減の加速と地域医療の再編に関して取り上げます。
病院数適正化支援事業に5万床以上の申請 民間病院の経営悪化は訪問看護にどう影響を与えるか
厚生労働省が実施する「病床数適正化支援事業」に、全国約2,000の病院から合計5万4,000床の申請があったことが2025年4月22日に明らかになりました。
この事業は、医療需要の急激な変化により職員の雇用などに課題のある医療機関を支援することを目的に実施するものです。対象は一般会計の繰り入れが無く、2022年度から3年連続経常赤字、もしくは2023年度から2年連続経常赤字で2024年度に病床削減済みの医療機関です。削減する病床1つにつき410万4,000円(ただし赤字額の平均の半分が上限)が交付されます。1医療機関あたりの交付上限は50床までとなっています。
交付に際しては、各都道府県が医療機関を選定することになっており、4月11日には全国7170床・総額294億2,568万円の交付が内示されていました。しかし、実際には、その7倍以上の申請が寄せられたことで、物価高や人件費の高騰などで経営環境が悪化している医療機関が多いことが改めて浮き彫りになりました。
福岡厚生労働大臣は4月22日の会見で、申請のうち公立病院などの分は約8,000床に過ぎず、約4万6,000床は民間病院であったと明らかにし、内示については「行政の支援が期待できない医療機関を早急に支援した」と発言しています。また、今回内示を大きく上回る申請があったことを受けて、今後は追加の内示も含めた必要な対策を検討していく考えを示しています。
これを訪問看護の経営の観点から分析してみましょう。まず、事業の目的でも言及されていた「医療需要の急激な変化」というのは、競合医療機関の増加や地域の人口の減少で患者自体が少なくなっていることが考えられます。その一方で、患者自体はいるものの、高齢化やバス・鉄道の減便・廃止の理由で通院が難しくなったというケースも考えられます。
4月11日の内示を都道府県別に見てみると、一番多いのは東京都の539床、次いで神奈川県の411床となっています。人口が多い都道府県ほど病床の絶対数が多いので当然と言えば当然です。しかし、大阪府は197床、愛知県は139床、兵庫県は107床など人口の割に少ない府県もあります。逆に北海道の352床、福島県の220床、新潟県の260床、長崎県の210床、鹿児島県の253床のように大阪府などの大都市圏を上回っている地域もあります。「離島や中山間地域など人口減少や住民の高齢化が著しい地域を多く抱えている」「面積が広いわりに人口が少なく、公共交通機関が脆弱」などといった地域で、民間病院を中心に経営環境が悪化していることが伺えます。
今後、今回のような施策により病床削減が進んでいけば、病院の受け入れ能力が低下します。その分は訪問看護や在宅医療などがカバーしていく必要があります。これから訪問看護事業を始めるのであれば、こうした点を踏まえて大都市圏以外を選択するのも手かもしれません。
ただし、いわゆる「田舎」と呼ばれる地域では、①人的資源が少なく、看護師などの採用が難しい、②訪問は車が基本。利用者宅間の距離があるので移動に時間がかかる、③在宅医など、業務上で連携が不可欠な専門職の絶対数が少ない、④「看護師が自宅を訪問する」というサービスそのものに関する住民の理解が低い、⑤同業他社が少なく学びや交流の機会がない、といった難点もあります。ICT化などで業務効率を改善させるなどの取り組みが不可欠になるといえます。具体的には、電子カルテや地域包括ケアのプラットフォーム等の導入で多職種連携を円滑にし、業務負担の軽減に繋げることが期待されます。
まとめ
ビジネスはどうしても「人口の多い場所が有利」という考えになりがちです。しかし訪問看護は、その地域の病院の充実ぶりなどもニーズを左右しますので、必ずしも大都市が良いとは言えないケースもあります。ただし、地方と都市部では事業スタイルに違いが生じます。ICT活用などで地域にあったモデルを確立することがポイントです。
![]() フリーライター1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。 2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。 2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。 |