医療界の現状と病院・訪問看護の関連性の把握が必須!訪問看護を戦略的に経営するために

 

 

一般社団法人全国訪問看護事業協会による2021年の調査では、2010年に5,731件だった訪問看護ステーションの数が2020年には1万1,931件となっています。わずか10年の間に訪問看護ステーションは、倍近い数になっています。一方で、一般病院の病床数は2010年時点で約160万床でしたが、2019年には約152万床に減少しています。

 

青:1993年~1999年 訪問看護実態調査(厚生労働省統計情報部)
青:2000年~2019年 介護サービス施設・事業所調査(厚生労働省統計情報部)
赤:2010年~2021年 訪問看護ステーション数調査(全国訪問看護事業協会)

※(引用元)一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和3年度 訪問看護ステーション数 調査結果」

 

実は訪問看護ステーションの増加と、一般病院の病床数の減少には国の政策が大きく関係しているのです。この関係性を理解しておくことは、今後訪問看護ステーションを経営していくうえで重要な鍵となります。

今回の記事では訪問看護ステーションを経営するうえで、ぜひ把握しておくべき背景と方法についてお伝えします。

目次

病院の現状

病院の現状を把握するうえで欠かせないのは、厚生労働省による地域医療構想の政策の理解です。地域医療構想とは質の高い医療を効率的に提供するための政策で、今後ますます進むであろう少子高齢化に向けた医療再編も含まれています。具体的には現在ある病院を機能別に次の通りに区別し、それぞれの病床数を都道府県に報告します。

・高度急性期機能
・急性期機能
・回復期機能
・慢性期機能

都道府県は受けた報告を活用し、各機能の病床の必要数と需要数を推計します。そして地域医療構想を策定し、団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて更なる機能分化を推進する計画です。また地域医療構想を進めるために、病床数の削減や病院の統合に対する支援も計られています。

〇中長期的な人口減少・高齢化の進行を見据えつつ、今般の新型コロナウイルス感染症への対応により顕在化した地域医療の課題への対応を含め、地域の実情に応じた質の高い効率的な医療提供体制を構築する必要がある。
〇こうした中、地域医療構想の実現を図る観点から、地域医療構想調整会議等の合意を踏まえて行う自主的な病床削減や病院の統合による病床廃止に取り組む際の財政支援を実施する。 【補助スキーム:定額補助(国10/10)】
○ 令和3年度以降においては、地域医療構想調整会議における議論の進捗等も踏まえつつ、消費税財源による「医療・介護の充実」とするための法改正を行い、これに基づき病床機能の再編支援を実施する。※(引用元)厚生労働省 新たな病床機能の再編支援について

 

■老朽化による建て替えの増加
1985年に成立した医療法第一次改正において、病院病床数の総量が規制されました。病床数規定には一定の猶予期間があったため、いわゆる駆け込み増床が行われました。駆け込み増床により病院設立数は1990年代にピークとなり、その後は徐々に病院数は減り続けています。1990年に9,022件だった一般病院数は、2007年には7,785件、2019年には7,246件にまで減少しています。1990年代前後に建てられた病院は、30年以上経過し老朽化が進んでいます。老朽化が進んでいる病院は耐震性等の安全が確保できません。さらに古い建物や設備は患者や医療スタッフにネガティブな印象を与えるため、患者数の減少や職員不足を招き経営が悪化する恐れがあります。また多くの病院で使用されている電子カルテを含めたITインフラの整備も、古い病院では設備を導入することが困難です。ITインフラが整っていないことも、先に挙げた患者数減少や職員不足につながるでしょう。

 

■仮設病棟の設置・新棟を建設
1990年代に建設されて老朽化が進んだ多くの病院では、新しい病院への建て替えが活発になってきています。また経営難や病床数削減のために複数の系列病院を統合し、新しく建設する病院も見られます。しかし病院を建て替えるためには、仮設病棟の設置や新たな敷地を確保する必要があります。膨大な時間と費用がかかるため、簡単に建て替えることはできない現状です。
例えば岩手県にある岩手医科大学では、2019年に新棟での運用を開始しました。併設の医学部、歯学部、薬学部のキャンパスを含みますが、用地を取得したのが2002年であり用地取得から移転運用までに17年要しています。費用も合計700億円かかりました。このように病院を新しく建設するためには、長い年月と莫大な予算が必要であり簡単なことではありません。

訪問看護ステーションの経営について

地域医療構想政策の2025年に目指すべき医療体制の中には、構想区域ごとの在宅医療を含めた医療機能別供給量を整備することが含まれています。団塊世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制(地域包括ケアシステム)の構築を実現予定です。これらは、病院での医療だけではなく在宅医療も大きく活用し、日本の医療を支えていく仕組み作りです。

※(参考元)厚生労働省 地域医療構想について

 

■在宅医療の活用
都道府県が策定する地域医療構想の実現のために、次の対応を図っていくことが必要と言われています。

  • 回復期の充実(急性期からの病床転換)
  • 医療従事者の需給見通し、養成数の検討
  • 慢性期の医療ニーズに対応する医療・介護サービスの確保について

このうち、慢性期の医療ニーズに対応するサービスの確保についての中には訪問看護も含まれており、基本的な考え方として次のことが挙げられています。

全ての方が、その状態に応じて、適切な場所で適切な医療・介護を受けられるよう、必要な慢性期の病床の確保とともに、在宅医療や介護施設、高齢者住宅を含めた医療・介護サービスの確保が必要。病床の機能分化・連携の推進と同時に、こうした医療・介護サービスの確保を着実に進める。

※(引用元)厚生労働省 地域医療構想について

病院の病床機能をしっかりと区別し、地域における需要と供給を確認しながら病床数を削減する方向に調整していきます。そして慢性期における需要に対して、訪問看護を含めた在宅での医療を充実させる方針です。

 

■病院の病床数削減
医療の効率化を図るために病床数の削減や、病院の統合が推進されています。病床数を削減したり病院を統合したりすると、削減した病床1床あたり、病床稼働率に応じた額が国から交付される仕組みがあります。病床数が減ることで、医療費の抑制が可能となります。そして減った病床の受け皿となるのが在宅医療です。病院と訪問看護ステーションの役割を明確に理解して、役割に応じた経営方針を立てていく必要があります。

 

■訪問看護ステーションの経営を維持するために
数々の経緯を踏まえて、今後在宅医療がさらに加速する見込みです。その一つとして訪問看護ステーションの増加があります。多くの訪問看護ステーションが設立されることで、地域包括システムの一端を担うことが可能です。訪問看護ステーションが増えると、その市場争いは避けられません。一般社団法人全国訪問看護事業協会の2021年の報告によると、2019年度の訪問看護ステーション新規数は1,376件ですが、廃止数は526件で休止数は238件です。この廃止・休止数は新規開業数の55%に相当します。そのため、訪問看護事業を継続していくには、しっかりとした経営戦略やノウハウを持っていることが必須です。経営者の意向や方針の軸が不安定だと事業は失敗する可能性が高いでしょう。また政策や情勢は常に動いており、強い関心を持って情報収集も継続しなければなりません。
また、訪問看護事業を継続するために重要なことの一つとして、病院や居宅介護支援ステーション等との連携が挙げられます。連携ができなければ、利用者の獲得ができません。連携するためには、訪問看護が日本の医療において、地域包括ケアシステムの中で、どのような役割を担っているか理解することが必要です。
さらに、現在の訪問看護ではICT化が推奨されていることから、システムを導入する事業所が増えています。この背景にはITインフラを整備し、経営も訪問看護業務も効率よく行えることが求められています。

 

≫ 訪問看護の経営・業務のICT化をするなら、訪問看護専用電子カルテ『iBow』

まとめ

今回の記事では訪問看護ステーションを経営するうえで、ぜひ把握しておくべき背景と訪問看護事業運営を継続する方法についてお伝えしました。訪問看護ステーション急増の背景には、地域医療構想による病床機能の区分化と病床数の削減があります。病床数が削減されることで在宅医療の役割が増えるのです。訪問看護事業を運営するためには地域包括ケアシステムを理解し、病院と訪問看護の役割を見極めて連携できることが重要です。

この記事をSNSでシェアする

RANKINGアクセスランキング