普段の生活をみるからこそ提供できる 訪問看護は“究極の個別ケア”

普段の生活をみるからこそ提供できる 訪問看護は“究極の個別ケア”

株式会社ケアーズ代表取締役
白十字訪問看護ステーション統括所長
認定NPO法人マギーズ東京センター長 共同代表理事 他
秋山 正子 さん

訪問看護にかかわる“人”をクローズアップする「訪問看護special interview」。今回登場いただくのは、在宅ケアの第一人者として、その人らしく生きることを支えてきた株式会社ケアーズ白十字訪問看護ステーション統括所長の秋山正子さんです。現在は、地域住民やがんに影響を受けるすべての人の相談支援など、活動の幅は大きく広がっていますが、その原点は訪問看護師として、「目の前の利用者さん一人ひとりを大切にする看護」だったといいます。

 

< 訪問看護special interview >
利用者さんの自宅でケアを提供するその難しさと醍醐味が「訪問看護」

ー  訪問看護の道に進まれた経緯を教えてください。

私が訪問看護師になったのは1989年、今から30年前のことです。今とは違い、がんと告知されたら「すぐに亡くなってしまう」というイメージが強い時代でした。私の姉に転移性の肝臓がんがみつかり、家族には余命が1か月ほどだと告げられました。

最期まで子どもと一緒に過ごせるように、姉を自宅に連れて帰りました。当時は、在宅で使える資源が非常に少なかったのですが、何とかやりくりをして在宅で看取りました。1か月といわれた余命は4か月半に延びました。

私自身が家族として在宅ケアを経験したことで、今後は住み慣れた自宅で終末期を過ごしたいと考える人が増えるのではないかと感じました。長く病棟で看護師をしていましたが、このことがきっかけで、訪問看護に進むことを決めました。

 

ー 病棟での看護と訪問看護の違いは何でしょうか?

病院は患者さんが来るところですが、訪問看護は利用者さんの自宅に看護師がうかがってケアを提供するもので、これは大きな違いです。その人の価値観に合ったケアを提供する“究極の個別ケア”といえるのが訪問看護ではないでしょうか。

 

利用者さんは脳梗塞後のリハビリテーションが必要な方、がん終末期の方など、ある程度の類型化はできますが、生活背景や人生経験、家族背景は一人ひとり異なるので、そこに看護師が合わせていかなければなりません。病院での看護とは違う難しさはありますが、それが訪問看護の醍醐味でもあると思います。

がんに影響を受ける人たちの相談支援の場をマギーズ東京開設への思い

ー  訪問看護にとどまらず、さまざまな支援活動に取り組まれていますが、
そのきっかけを教えてください。

私が訪問看護を始めて以降、がん医療は入院から外来中心にシフトしてきました。医療者と患者さんの接点が少なくなり、患者さんには十分な情報が提供されないまま、「この先の治療はない」といわれてはじめて訪問看護につながってくるケースが非常に多いと感じていました。

 

もう少し早い段階で、通院ができるだけのADLが維持された状態で訪問看護が受けられれば、訪問看護師が利用者さんの話をゆっくり聞くこともできますし、利用者さんがまだ選択可能な段階でいくつかの選択肢を提示することもできます。すでに緩和ケアが中心となっているのであれば、無理をして積極的な治療を続けずに自宅で過ごす、あるいはホスピスを利用する、ケア付きの住宅に移り住んで在宅医療を受けるなど、その人が最期をどう過ごしたいかという希望に沿うこともできます。いざというときに訪問看護という相談先があることも利用者さんや家族にとって、安心につながるのではないでしょうか。

 

外来中心のがん医療では、通院を続けながら訪問看護につながることを「病院から見放されるのでは?」と感じる患者さんもいるかもしれません。しかし、早くから訪問看護がかかわるからこそ、がんの人やその人を支える周囲の人たちの思いをじっくり聞いて、病院とのかかわり方から家族のこと、最期をどこで過ごしたいのかなど、治療に伴う過ごし方も含めて気軽に相談ができる場が必要と考えました。そのなかで、「通院を続けながらでも、訪問看護が利用できることを伝えられれば」と思ったのです。

 

そんなときに知ったのが1996年に開設したイギリスのマギーズキャンサーケアリングセンター(以下、マギーズセンター)でした。マギーズセンターは予約不要で、気軽に立ち寄り、ゆっくりとした環境でさまざまな専門的支援を無料で受けることができる、相談者が自分を取り戻すための空間とサポートの場です。私が必要だと思っていたのはこれだと思い、すぐにイギリスのマギーズセンターに見学に行きました。その考えをもとに2011年に東京都新宿区内に開設したのが「暮らしの保健室」です。

 

ー  「暮らしの保健室」「マギーズ東京」はどのよう支援の場なのでしょうか。

「暮らしの保健室」は、地域に開かれた相談支援の場で、看護師や薬剤師、ボランティアなどが介護相談や健康、生活のことなど、多様な相談にのっています。困りごとがあるから訪れるというよりは、お茶を飲みながら話をするなかで生活するうえでの困りごと、どこに相談に行けばよいかわからないことなどを聞き、その橋渡しをしています。

がんの方やその家族などへの相談支援を行うマギーズ東京は2016年に開設できました。イギリスのマギーズセンター同様、予約も不要で、相談は無料です。建物も木の温もりを大切に、ゆったりと過ごしていただける、第二の我が家のような居場所です。

多くの方にマギーズ東京のことを知っていただき、毎月約500名のがんを経験された方、ご家族や友人、医療者が訪れています。治療を受けるなかで不安なこと、副作用のこと、これからの生活のこと、なかなか口に出せず苦しい思いを抱えている人は少なくありません。ここに来てひとしきり胸の奥につかえていたものを吐き出して、自分を取り戻せるように医療的な知識のある友人のような看護師や心理士が寄り添う場です。

マギーズ東京には、「患者さんに紹介する前に自分の目でみてみたい」と、看護師が来訪することも少なくありません。医療機関とは離れ、ゆっくりとした時間が流れる環境に身を置くことで初めて思いを口にできたり、気持ちの整理がついたり……、それを医療者自身に経験してもらうことも大切だと思っています。

相談支援の活動で感じることは、訪問看護師としての経験が非常に役立っているということです。話を聞くなかで、この先こんなことが問題となるのではないか、こんなことで困っているのではないか、自宅で過ごせていることのメリットを活かすにはどんな支援があればよいかなど、必要な支援を頭のなかで組み立てることができるのは、これまでの経験のおかげだと感じます。

 

ー  最後に、訪問看護への思い、そして今後の活動について教えてください。

私がこれまで携わってきたことのすべては、訪問看護師として目の前の利用者さんや家族にかかわってきたことから始まったものです。訪問看護につながる方に本当に必要なものは何か、もっとこんなものがあればよかったのではないか、そんな思いで一人ひとりに対応していくことで新たな発想が生まれました。

訪問看護は一人ひとりに異なる対応が求められるので、決して簡単ではありません。目の前の実践を大事にしていくことが次の新しいステップにつながると思っていますし、その時々で新たな出会い、縁が生まれて今に至っています。

今後の取り組みでいえば、寄付によって運営しているマギーズ東京の活動の継続が大切なテーマのひとつです。直近では、3月11日に日本音楽財団協力のもと、初のチャリティーコンサートを開催する予定です。マギーズ東京の活動を知る方にはクラシックとの出会いに、クラシックファンの方にはマギーズ東京との出会いの場になれば思っています。

コンサート開催日の3月11日は、忘れることのできない日です。東日本大震災から丸8年を迎えるこの日、東日本大震災への鎮魂曲も演奏していただく予定です。当日は、マギーズ東京での活動についても紹介しますので、ぜひ多くの方に足を運んでいただければと思います。
詳しくは下記 “マギーズ東京チャリティーコンサートのお知らせ” をご覧下さい。

 

株式会社ケアーズ代表取締役
白十字訪問看護ステーション統括所長
認定NPO法人マギーズ東京センター長 共同代表理事 他
秋山 正子 さん プロフィール

1973年、聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)卒業後、産婦人科病棟で臨床経験を積み、看護教育に携わる。1992年、医療法人春峰会白十字訪問看護ステーション勤務、2001年に活動を継承し、株式会社ケアーズ白十字訪問看護ステーション設立。2011年に東京都新宿区に「暮らしの保健室」、2015年、看護小規模多機能型居宅介護「坂町ミモザの家」開設。2016年からは認定NPO法人マギーズ東京センター長、共同代表理事も務める

 

マギーズ東京チャリティーコンサートのお知らせ

日時 3月11日(月)18:00開場 18:45開演
場所 東京文化会館大ホール(JR上野駅公園口前)
演奏 ヴァイオリン ベンジャミン・ベイルマン、ピアノ 江口玲
チケット S席10,000円、A席7,000円、B席3,000円、C席2,000円 ※ 演奏の前に「秋山正子『マギーズ東京の日々を語る』を予定 ※ チケット代は全額、マギーズ東京の運営費として寄付されます
詳細 https://maggiescharityconcert2019.peatix.com/)か、下記お問い合わせまで。 お問い合わせ:マギーズ東京チャリティーコンサート実行委員会事務局(事務局長:佐藤由巳子) TEL:03-6261-7665 FAX:03-6261-7666 e-mail:concert@maggiestokyo.org

 

訪問看護special interview企画・運営:株式会社eWeLL (イーウェル)
私たちは訪問看護支援クラウドシステム『iBow(アイボウ)』の開発/保守・販売・サポートを行っております。
「ひとを幸せにする」をミッションとして掲げ、訪問看護に従事する医療関係者の皆様や、訪問看護を利用されるご利用者様のお役に立てるよう、サービスを提供しております。

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