訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#3

訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#3

本コラムでは訪問看護業界に関わる最新の動向を探っていきます。今回のテーマはBCP(事業継続計画)、ハラスメント防止の取り組みについて取り上げます。

利用者(家族)からのハラスメント2割が経験 法整備進むも「変化なし」が半数以上

介護業界で最大規模を誇る労働組合が8月30日に「2024年度就業意識実態調査(※)」の結果を発表しました。調査は今年春に8,600人余りの組合員に実施し、5,623人が回答しました。そのうち主に訪問看護の業務に携わっているのは202名です。今回は、その中から介護事業者に義務付けられているBCP(事業継続計画)、ハラスメント防止に対する取り組み状況の回答を紹介します。

※「2024年度 就業意識実態調査要約版」  UAゼンセン日本介護クラフトユニオン

BCP(事業継続計画)に対する取り組み

「職場でBCPが策定されているか」に対する「されていない」の回答は1%台であり、一見、取り組みは進んでいるように思えます。しかし、月給制勤務者の36.4%、時給制勤務者の57.0%が「知らない」と回答しています。また月給制・時給制のいずれも15%前後が「策定されているが見たことがない」と回答しており、従業員への周知が十分に行われていない実態が浮き彫りになりました。

「感染症・食中毒の予防及び蔓延防止のために実施されているもの(複数回答)」では、「研修」「感染対策委員会の開催」「指針の整備」「訓練(シミュレーション)」の順となりました。ただし時給制勤務者は月給制に比べていずれも回答率が低く、これらについて学ぶ機会が十分にないことが伺えます。

ハラスメント防止に対する取り組み

2021年4月に介護保険法の運営基準に「事業者のハラスメント防止の義務化」が追加されました。また翌年4月1日には「パワハラ防止法」が施行されるなど、ハラスメント防止は事業者の責務の一つとなりました。では実態はどうなっているのでしょうか。

同組合では2018年に組合員に対して、利用者やその家族からのハラスメントに関するアンケートを実施しています。「そのときに比べて職場や法人のハラスメントに関する意識や対応に変化はあったか」と尋ねたところ「変わらない」が過半数となりました。

実際に「この2年以内にハラスメントの被害を受けた」のは2割強。その内容は「精神的暴力」がトップですが、2位は月給制勤務者が「身体的暴力」なのに対して、時給制勤務者が「セクシャルハラスメント」となっています。時給制勤務者は主婦など女性の割合が高いことも原因の一つとして考えられます。

「ハラスメントを受けたことで離職を考えた」と回答したのは約4割。実際に離職をしなかった人にその理由を尋ねたところ「担当を変えてもらった」「上司・法人が問題を解決してくれた」など事業者側の取り組みが奏功した回答もありましたが「他の職員に迷惑をかけるから」というものも多く見られました。特に月給制勤務者ではそれが最も多くなっています。ある程度責任のある役職・立場に立っていることから「辞めるわけにはいかない。自分が我慢すればいい」という考えが優先してしまっていることが考えられます。

参考「2024年度就業意識実態調査」の結果について UAゼンセン日本介護クラフトユニオン

まとめ

「BCP」「ハラスメント防止」のいずれについても事業者側の対応が十分でない実態が明らかになりました。訪問看護は、訪問先で災害などが発生した際には、まず看護師1人で状況判断をし、適切な対応を取らなくてはなりません。BCPについてはスタッフ1人ひとりにしっかりと周知する必要があるでしょう。

また、事業者側の目が届かない場所で勤務すること、従事者の多くが女性であることなどから、ハラスメントに遭う機会が多いと思われます。ハラスメントの発生をゼロにすることは難しいのが現実です。実際にハラスメントがあった場合に、利用者(家族)への対応や被害者へのフォローをいかに適切に行えるかが重要になると言えます。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。
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