訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#10

本コラムでは訪問看護業界に関わる最新の動向を探っていきます。今回は訪問看護業界での採用にも影響する可能性の高い、病院で勤務している看護師の離職率や処遇改善に関して取り上げます。
病院看護師の処遇改善進み離職率低下 訪問看護事業所の採用活動は、戦略性が重要に
2025年3月31日、病院で勤務する看護師の離職率や給与動向などの実態調査の結果が発表されました。訪問看護事業所にとっては看護師の採用・定着などを図る上でも重要なデータとなります。詳しく見ていきましょう。調査は2024年10月1日から同年11月15日にかけて全国8,079病院を対象に看護部長を通じて実施し、3,417件の回答を得ました。
2023年度の正規雇用看護職員の離職率は11.3%で2022年度に比べて0.5ポイント低下しました。また新卒者の離職率は8.8%、既卒者の離職率は16.1%で、ともに前年度比で低下しています。離職率を病床規模別にみてみると、病床数が多いほど低い傾向にあります。例えば既卒者の場合、99床以下の病院では21.8%ですが、500床以上では11.8%と2倍近い差が見られます。また、都道府県別では東京都が最も高く14.3%です。以下、大阪府、神奈川県、兵庫県、鹿児島県、千葉県、埼玉県、京都府、愛知県となっており、大都市圏ほど高い傾向が見られます。これは、転職先の候補となる医療機関の数が多いことなどが理由として考えられえます。
新卒者の主な退職理由として考えられるものでは、「健康上の理由(精神的疾患)」が最も多く、以下「自身の看護師としての適性への不安」「自身の看護実践能力への不安」「上司・同僚との人間関係」「他施設への関心・転職」「健康上の理由(身体的疾患)」「看護以外の業界への関心・転職」となっています。これからも新卒看護職に対してはメンタルケアを特にしっかりと行う必要があることがわかります。ただし、これは離職者本人に直接聞いたものではなく、看護部長などの管理職者が考える退職理由であるため、離職者の本音が正しく反映されていない可能性については留意する必要があると言えそうです。
次に給与面を見てみましょう。大卒新卒看護師の初任給(税込)は28万4,063円で、前年度比で9311円増えました。ここ3年間では1万6,623円の増加となっています。また、勤続10年で非管理職の看護師の月給与(税込)は33万4,325円で、こちらも前年度比で7,650円のプラスとなっています。
このように病院看護師の処遇は向上する傾向にあります。訪問看護事業所が採用活動をする際も、この動向を踏まえた給与額を設定する必要があるでしょう。また、いわゆる「働き方改革」について、①短時間勤務正職員(育児・介護休業法に定める場合を除く)、②職務限定職員、③勤務地限定職員、の3つの仕組みについて導入率を尋ねたところ、最も多かったのは「いずれも導入していない」の62.0%でした。①は31.9%、②は7.4%、③は2.0%に留まっており、給与面以外での処遇改善はまだまだ進んでいない現実が伺えます。ただし、いずれかを導入している病院では「個々の生活事情を理由とした退職者数が減少した」「ワーク・ライフ・バランスが確保しやすくなった」などの効果を実感しています。こうしたメリットが広く認識されていけば、導入する病院も増えていくものと思われます。
最後に、看護に関して活用しているICTについて見てみましょう。各種機器について導入率を尋ねたところ、「電子カルテ(看護記録)」が76.8%、「院内コミュニケーションツール」が59.4%、「医療スタッフの教育プラットフォーム」が56.3%と突出して多くなりました。一度ICTによる業務を経験した看護師が、アナログでの業務をしたがるとは思えません。訪問看護事業所にとってもこの3つは採用をスムーズに行う上での必須アイテムになっているといえます。
このように、看護師不足を反映してか給与を含む看護師の処遇改善は進み、その結果として離職率も低下傾向にあります。これは転職マーケットに流れてくる看護師が減少することであり、看護師を採用したい事業者にとっては逆風となります。雇用条件の見直しなどしっかりとした戦略に基づく採用活動が求められます。
まとめ
病院看護師の給料は上昇傾向で、離職率は低下しており、訪問看護事業所にとっては看護師採用の面で厳しい状況になっています。しかし、働き方の多様化や業務のICT化などの面では十分に取り組めていない病院も少なくありません。訪問看護事業所の採用活動においては、これらの部分の充実を図り、病院との差別化を図っていくことも重要になっていくものと思われます。
![]() フリーライター1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。 2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。 2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。 |