介護業界最新動向15

介護業界最新動向15

本コラムでは、訪問看護業界の最新動向を取り上げます。今回は、利用者の人生の最終末期における訪問看護師の役割を考察します。

「家族や医師には本音を伝えにくい…」
理想のアドバンス・ケア・プランニング実現には訪問看護師の介在が必須

訪問看護は利用者の人生の最終末期に関わることが多い仕事です。そのためアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)にも深く関与することになります。

10月に日本ホスピス・在宅ケア研究会の全国大会が開催されました。ACPについても多くの時間が割かれ、さまざまな立場の人たちが現在のACPの問題点や理想的なACPのあり方などについて意見を述べました。今回は、その内容を元に「ACPにおける訪問看護師の役割」を検証したいと思います。

ACPの鉄則は「本人の意思が最優先」です。しかし参加した一般市民からは「自分の考えを伝えるのは難しい」との声が上がりました。ある年配男性は「家族には逆に本当のことを言いづらい」「死に関わることだけに、本心を語るほどに家族との軋轢を生むだろう」と発言しました。では、医師に考えを伝えるのはどうでしょうか。この点について在宅医は「患者にとって通院先で医師と話すのは、『よそ行き』の感覚。どうしても『自分を良く見せたい』という意識が働くのでなかなか本音が出てこない」と指摘しました。また、結果的には誤診でしたが医師から余命半年を宣告された経験がある女性は「自分の今後についてさまざまな人に相談をした。医師は、私の気持ちを推し量るより『会いたい人に会っておきなさい』など、冷静に・現実的に回答しすぎる傾向があった」と、必ずしも医師は良い相談先とは限らないという考えを示しました。

ほとんどの人生の最終末期には医療が関わりますので、ACPでは医師が重要な役割を果たします。ときには医師の意見がACP全体の方向性を左右します。しかし当日は、医師自身からも医師のACPへ関わり方に疑問を感じる意見が出ました。

ACPは最終的には「延命治療を希望するか」など、どのように死を迎えるかの選択を本人に問います。しかし、いきなりそれを聞かれてスラスラと答えられる人はごく一部ではないでしょうか。したがって、ACPは「好きな食べ物は何か」など「聞きやすいこと」「答えやすいこと」の聞き取りから始め、それを徐々に積み重ねていくのが鉄則です。

ある在宅医は「医師は前段階を全て飛ばして、いきなり最終結論を求めたがる傾向にある」と指摘しました。この点について別の医師は「医師には『延命治療を行わなかったことを後になって遺族などから訴えられるリスクを避けたい』という考えがある。そのためどうしても、その部分についての意思確認ばかりを気にする」とコメントしました。実際に、初回訪問時にいきなり「延命治療は希望しますか」と訪ねた結果、家族の気持ちを損ねてしまい、わずか1回で「訪問拒否」となってしまった在宅医もいるそうです。

このように、本人にとっては「自分の暮らしや性格をよく知っている家族には本音を伝えられず、医師は相談相手になりにくい」という現実があります。そこで求められるのが「自宅を訪問しており本人の生活ぶりや性格をある程度理解している」「本人の意思が自分に直接利害を与えることが少ない」という立場の人です。その代表が訪問看護師です。他にはケアマネジャー、訪問介護員、訪問リハビリテーション職などが該当します。

こうした人たちが日常業務の中で知った本人の希望・意思を、医師や家族などACPに関わる人たちに伝えるパイプ役を果たすことで、真に理想的なACPの実現が可能になります。

また、ACPの「P」はプランニング(計画)を意味していることから、PDCAサイクルを適切に回すことが重要です。特に対応が難しかった事例の場合は、終了後に関わった人たちでカンファレンスを行うことがより良いACPの提供には必須です。こうした場でも、遺族と医師の中間的立場である訪問看護師がファシリテーターをするのが適任と言えます。

まとめ

ACPにはさまざまな立場の人が関わりますが、本人との関わり度合いによって意見が異なることが少なくありません。訪問看護師は、本人の生活を把握しやすい立場にあり、かつ医療的な知識を持つことから、多職種間の意見の調整役として非常に重要な役割を果たします。

もちろん、それには本人が「自分の人生をどうしたいと考えているか」などの「本音」を思わず口にしてしまうような雰囲気づくりや関係性の構築ができていることが大前提になります。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。
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