介護業界最新動向16

介護業界最新動向16

本コラムでは、訪問看護業界の最新動向を取り上げます。今回は、訪問看護事業が置かれている現状と国に求められる役割に基づいた訪問看護事業戦略について考察します。

大規模化・多様な利用者への対応 国が訪問看護事業所に求める役割とは何か

2025年11月12日開催の第626回中央社会保険医療協議会総会(中医協)で、厚生労働省が示した資料によると、全国の訪問看護利用者数(※医療保険の訪問看護療養費算定者)は2025年で60万人弱。2015年からの10年間で約4倍に増えています。このようにニーズは非常に堅調に推移しており、今や訪問看護は国民を支える社会インフラとして欠かせない存在になっていると言えます。しかし、マーケットが成長しているにもかかわらず、個々の事業者の経営状況には大きな差があるようです。

一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によると、2025年4月1日現在、全国には1万9,314の指定訪問看護事業所があります。2024年4月1日時点に比べて1,506ヵ所増えました。ニーズ増加を反映した結果と言えます。しかし、その一方で2024年中に廃止となった事業所数は886ヵ所もあります。加えて355ヵ所が休止しています。

つまり、新規開設が増える一方で、経営不振をはじめ様々な理由で事業を休止・廃止しなくていけない事業所も増えているという二極化が進んでいます。経営者にとっては事業継続のための戦略性がより重要になります。

そのためのキーワードは何でしょうか。まず、国の診療報酬・介護報酬改定の議論の際のテーマの一つになっている「事業者の大規模化」が挙げられます。訪問看護に限らず、小規模な介護・医療事業所は、下記のようなデメリットがあります。

①体調不良や家庭の事情などで休む人や休職者が出た際に事業に支障が出る
②24時間対応や緊急対応体制を構築しにくい
③従業員が教育・研修を受ける機会が少なくなる
④対外的信用力が低くなりがち

また、国が進めるDXによる業務効率化についても、費用負担の問題などから取り組みが進まない傾向があります。こうした点の解消を目的に、介護分野では「社会福祉法人の合併の際に必要な資金を融資する」「事業者が協力して人材募集や合同研修、事務処理部門の集約などの職場環境改善を行う場合に支援を行う」など大規模化・協業化を支援する施策も行われています。

近年では、こうした流れもあり、訪問看護事業所も規模の拡大が進む傾向です。2014年時点では看護職員の在籍人数が5名以上の事業所は全体の3割強でしたが、2024年には半数近くに増加しています。大規模化は、看護師が互いの知見や専門分野を持ち寄ることで、品質の高い看護をより多くの人に届ける体制づくりにつながります。「病院・施設から在宅へ」という国の施策の方向性にも沿う形になります。

また「より多くの利用者層への対応」も求められます。訪問看護利用者の年齢を10歳刻みで区切り、2023年と2025年の訪問看護利用者数を比較してみると、最も増えているのは10~19歳で、実に1.5倍になっています。

15歳未満の児童に限ったデータですが、訪問看護を利用する理由となった傷病名は、先天奇形、脳性麻痺などの神経系疾患、低体重出生など周産期に発生した病態もありますが、最も多いのは自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動障害などの「精神及び行動の障害」で31.0%を占めています。以前は、「落ち着きがない」などとされてきた子どもに正式な病名がついたことが利用増加につながっています。

また、少々古いデータですが、厚生労働省のまとめでは、人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアを日常的に必要とする0歳~19歳の「医療的ケア児」のうち、在宅生活者は2021年で推計2万180人います。2005年から2倍以上に増えています。

このように、これから訪問看護を利用する子どもの増加が考えられます。事業者にとっては子どもへの対応力の向上が、今後重要になっていくものと思われます。

まとめ

訪問看護市場は今後も拡大が見込めますが、その分新規参入なども増えると思われます。国の政策の方向性などを注視して「訪問看護事業所に求められている役割」をしっかりと果していける体制を構築することが、安定した経営には不可欠と言えるでしょう。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。
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