介護業界最新動向17
本コラムでは、訪問看護業界の最新動向を取り上げます。今回は、高齢者住宅入居者のケアプラン作成に自己負担導入された場合に考えられる訪問看護事業所経営への影響について考察します。
一部高齢者住宅入居者のケアプラン作成に自己負担導入へ 訪問看護事業所の経営にはどのような影響が?
昨年、厚生労働省がケアプラン作成に自己負担を導入する方向性を示しました。現在、住宅型有料老人ホームなどのいわゆる「介護サービス外付け型高齢者住宅」の入居者を対象に原則1割の自己負担を導入すること、入居者のケアプラン作成と生活相談に対応する新たな相談支援の類型を創設する方向で議論が進められています。これらについては業界内でも反対論・慎重論があり、どのような制度がいつから始まるのか現状では何とも言えません。しかし、仮に制度が導入されたとして、訪問看護事業者の経営にはどのような影響が考えられるでしょうか。
居宅介護支援事業所の中には、ケアマネジャー1人ないし数名で業務を行っている事業所もあります。こうした事業所で、現在介護サービス外付け型高齢者住宅に入居している利用者が少数の場合、新類型の指定を受けて新たに発生する費用徴収等の事務的負担は、対人援助に専念したい現場にとって決して小さくありません。本来のケアマネジメント業務を圧迫することを避けて、やむを得ず介護サービス外付け型住宅の入居者を担当することを断念せざるを得ないケースも懸念されます。
一方で、介護サービス外付け型の高齢者住宅の中には「入居者が介護サービスを自由に選択できるように」との考えから、あえて居宅介護支援事業所を併設していないところもあります。こうした住宅が囲い込み』といった懸念を持たれないよう、透明性の高い連携が求められる中で居宅介護支援事業を新たに手掛けるという新たに居宅介護支援事業所を始めるとは考えにくい点があるのも事実です。
したがって、ケアプラン作成に自己負担が導入されれば、高齢者住宅側がこれまで以上に、ケアプラン作成やモニタリング支援を外部専門職に委託する動きが強まる可能性があります。しかし、既存の居宅介護支援事業所ではそれに応じきれないことも想定しなくてはなりません。正確なデータがあるわけではありませんが、現在、訪問看護事業所で居宅介護支援事業所の指定も受けているところは、2割にも満たないとみられます。訪問看護師とケアマネジャーでは、人材に求められる知識やスキル、育成方法などが大きく異なります。このため特に規模の小さい訪問看護事業所が両方の事業を手掛けるのは、物理的な面などでの負担が大きいものがありました。
しかし、前述したような理由から、介護サービス外付け住宅入居者のケアプラン作成ニーズが増すようなことがあれば、訪問看護事業者にとっては、居宅介護支援事業を併設することは、看護と介護の密な連携を通じて、より質の高い地域ケアを実現するための有力な一翼を担うことにも繋がります。
深刻化するケアマネジャーの「量的・質的」な不足
ここ数年のケアマネジャー試験の合格者数は概ね1万~1万2000人前後で推移しています。第1回(1998年)の合格者9万1269人は突出して多いですが、2001年~2014年ぐらいまでは概ね3万人前後でした。つまり、新たにケアマネジャーとして現場に加わる人数は減少傾向にあります。しかも、初期の頃にケアマネジャーになった人の中には、今後年齢などを理由に引退する人も多いと思われます。近い将来、ケアマネジャー不足が大きな社会問題になってくると予想されます。
また、問題なのは数だけではありません。現在、ケアマネジャーの受験資格要件の1つに国家資格の保有があります。該当する国家資格は、医師・看護師・薬剤師・理学療法士など医療系資格、介護福祉士や社会福祉士など福祉系資格となり、この中のいずれかの資格保有が必要となります。医療系資格を持ってケアマネジャーになった人は、第1回試験では約20%程度いたとされています。しかし、その後割合は約15%程度まで低下しました。2023年は約23%と増えますが、24年には再び15%台にまで落ち込んでいます。
このように、将来のケアマネジャー不足の深刻化が予想されている中で、特に看護師など医療系有資格者のケアマネジャーが少なくなると考えられます。医療的な対応が必要な高齢者が、病院でなはなく高齢者住宅や在宅で生活するケースが増え、これまで以上に医療と介護の密な連携の必要性がうたわれる中で、医療の知見を有したケアマネジャーは社会に必要な存在です。例え、看護師自身はケアマネジャーの資格を有していなくても、訪問看護事業所+居宅介護支援事業所のような形態で、ケアマネジャーと看護師が常に密に情報共有・連携をとれる環境であれば、医療依存度の高い人たちに向けた地域包括ケア体制の構築も可能となります。
医療連携を軸とした「選ばれる事業所」への転換
具体的には、ナーシングホームなど医療対応が必要な入居者が多い高齢者住宅とのパイプを築きやすいという強みがあります。また看護師がケアプラン作成段階からアドバイスに関われることで、訪問看護導入のタイミングが早まり、サービス利用が断続的になりにくくなるため、ADLの改善・維持効果も期待できます。そうした、高齢者のメリットを考え、訪問看護事業所が居宅介護支援事業を手掛けるケースが増えるかもしれません。ただし、重要なのは「居宅介護支援事業を手掛けるか否か」という二択ではなく、自身の事業所の立ち位置を明確化することです。「高齢者住宅と積極的に連携し、包括的支援を担う」「自身は中立的立場を保ち、専門職として医療提供に徹する」「保険外サービスも含めた複線型経営を目指す」いずれの選択をするにせよ、制度が動いた「後」ではなく、今のうちから住宅・居宅・看護の関係性を整理しておくことが将来の安定経営につながるといえます。
まとめ
ケアプランの自己負担導入は、介護サービス利用ニーズの変化などの様々な影響をもたらすことが考えられます。訪問看護事業者にとって現場の負担を考慮しつつも、居宅介護支援事業を新たに始める、強化する、外部の居宅介護支援事業所との連携を強化するなどの経営判断を迫られることになります。ただし、議論の行方は流動的です。前回の介護保険制度改正で新設予定だった「訪問+通い」の新サービスが土壇場で見送りになったように、方向性が大きく変わることも予想されます。国の動向などを常に注視しながら、最善の選択を行うことが求められます。
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。 |
西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。