訪問看護の管理者が知りたい!アンガーマネジメント ~ 問題となる怒りの原因と対処法 ~

訪問看護ステーション緑風渡邊恭佑様アンガーマネジメント1

新型コロナウイルス感染症の影響で慣れないテレワークなど生活リズムが崩れ、ストレスが溜まり、「怒りっぽくなった」「常にイライラして自分でもどうしていいのかわからない」といった怒りの感情で悩んでいる方に向けて、アンガーマネジメントの需要が増えています。医療業界でも管理者からスタッフへのマネジメントや、スタッフ間・利用者との関わりなどでアンガーマネジメントを取り入れられてきました。そこで今回は、訪問看護ステーション緑風  渡邊 恭佑 様に管理者の方に向けてのアンガーマネジメント、怒る事の意味と対処法についてご紹介いただきます。

目次

アンガーマネジメントと聞いて、皆さんは何を感じますか。怒りのマネジメントだから怒らなくなることと考えてしまいますが、アンガーマネジメントは決して怒らなくなることではないという認識をもってもらいたいです。そもそも、怒りとは何なのか知る必要があります。人には喜怒哀楽という感情があり日々生活を送っています。感情を表出することは必要なことですが、怒りという感情にはマイナスなイメージを持ってしまう人が多いのではないでしょうか。マイナスに捉えてしまう怒るという感情にも、プラスに思える部分があります。そこで、怒ることのメリット・デメリットを考えてみてください。

メリットとして、スッキリする・思っていることが言えるという部分があるのではないでしょうか。しかしデメリットとして、周りの方が不快になる、人間関係が悪化する、などの結果がでることもあります。人の行動には必ずしも背景が存在し、怒りを感じることは“当たり前”のことであり、機能的側面から話をすると、人が怒るということは、防衛反応の一つです。つまり、怒りを感じることは悪いことではなく問題ではなく、怒りは誰にでもあることなので、怒りに左右されずメリットに繋がる怒りであれば人間関係を悪化させることはありません。ここでのポイントは、あんなに怒らなければ良かった、あの時怒っておけば良かったなど、怒りで後悔しないことになります。

現場で問題となる怒り

前項では怒りというものを知ってもらいましたが、ここでは問題となる怒りについて考えていきましょう。看護は個別性のある看護計画を立案し、他者を評価していますが、怒りを学ぶためには他者ではなく、自己特性を理解することが大切になります。皆さんは以下の①〜③でどの部分に当てはまり、怒りの矛先は④〜⑥のどこに向きますか。

①小さいことでも強く怒る
②過去のエピソードを相手に伝えながら怒りが再燃する。根に持つタイプ
③普段からイライラしやすい。怒りの受容体が多い人
④他者に攻撃性を向ける
⑤自分自身に向けて自分を傷つける
⑥物に当たる

ここでのポイントは、怒りを感じた時に④〜⑥に向けることが問題ということです。

なぜ怒りの感情がでるのか

怒りの感情が無ければ、人間関係が円滑になり、紛争が起きることなく、チーム医療を強化することができると思いますが、そもそも何故怒りの感情がでるのでしょうか。ここでは怒りの感情の出現について考えてみましょう。最近怒りを感じたエピソードを思い出してください。怒りということに焦点が置かれてしまいますが、実は怒りの前には別の感情があります。不安、寂しい、悲しい、悔しい、切ない、後悔、辛い、心配などの感情があり、次に怒りの感情が出現します。つまり、怒りは“二次感情”であり、怒りの前には必ず別の感情が存在します。一次感情を上手く言語化・表出しないことから、怒りという部分だけを相手に伝えてしまうので、問題となってしまいます。

怒らせる実態とは

ここでは怒りの実態、正体になるものについて説明をさせていただきます。「怒りの感情を与えた相手だ」、「あの時のエピソードが私を怒らせた」などと思うことがありますが、実は怒りというのは、【自分自身が持つ理想と現実のギャップから生まれる】物なのです。我々はこれまで生まれてから、今この瞬間まで多くの経験をしています。その経験から生まれた価値観が存在し、その価値観と現実のギャップから怒りが発生するのです。例えば、部下はトップダウンに遵守するべき、報告・連絡・相談を徹底するべき、点滴の指示がでた時はダブルチェックをするべき、一つの手技が終わったら普通手指消毒をするべき、患者は医療者の指示に従うべき、ルール・規則は守るべきなど、多くの“べき”が存在します。価値観と違うことが起きると、不快感・怒りを感じます。逆に自分自身と合う思考の方がいれば、快の刺激を受けて怒りは感じません。エビデンスを持って説明すると“扁桃体”の役割になります。扁桃体とは、生まれた本能的感情と外部の情報、既存の記憶から情報をまとめて、状況に応じた感情判断をします。

訪問看護で利用者が、看護師の対応にクレームをいうことがあります。そこには利用者が持っている価値観と、訪問看護を提供している医療者との価値の対立が起きて怒りからクレームに繋がります。利用者の “べき”という価値観は、年齢によって違いがあります。しかし利用者の “べき”は本人にとっては正義であり、正解なので否定する必要はありません。必要なことは、個々の価値のズレをすり合わせていくことが求められます。その際、自分達が育ってきた環境・価値観を基準に考えてはならず、現状に柔軟に適応していく能力も必要になります。利用者を例に出しましたが、スタッフに対して“しっかりとするべき”、“ちゃんとするべき”という言葉を使う方がいますが、“しっかり”や“ちゃんと”という言葉は相手と共通言語になりにくいので、基準・評価を明確にすることが必要です。

現場で怒りに流されない方法

怒りの感情について理解したとしても、現場で起きる報告・連絡・相談が徹底されていないこと、スタッフのミス、突発的なアクシデントにより、自己のメンタルヘルスに支障が起きて感情コントロールが不良になることがあります。ここでは、怒りの感情に流されない方法についてお伝えします。人は怒りを感じますが、その怒りのピークはどれくらいなのでしょうか。文献などにも差がありますが、【怒りのピークは6秒】とされており、この6秒を乗り越えるかが勝負になり、ここを堪えることができないと、怒りに流された行動をしてしまうので、対処行動を3つご紹介します。

 

ⅰ.怒りを感じた時に点数をつける
イラっとした時、その状況に点数をつけます。点数の付け方は1〜10点の範囲として、10点がこれまでの人生で最高に怒りを感じたエピソードとして、目の前の状況に点数をつけます。仮に皆さんが最近感じた怒りのエピソードを思い出して、点数をつけてみてください。点数をつけることで、思ったより低く感じると思います。

ⅱ.自分を落ち着かせる言葉を唱える
説明にあるように自分自身を落ち着かせる言葉になります。例えば「こんな人に感情を左右されないで対応している自分は素晴らしい」「イライラするけど帰ったらお酒でも飲もう」「相手が言ってくれるのは自分にとってチャンスだ」などになります。

ⅲ.重要な事案か重要でないか、変えられるか変えられないかを分別をつける
怒りを感じたエピソードを、自分が行動することで変えられるか、変えられないかを分別します。下の図を参照してください。相手の行動変容が可能で、自分に重要なら①、重要でないなら②、行動変容不可能だが重要であれば③、重要でなければ④に分けて考えます。ここでは思考の整理を行います。先ほど、分別した内容で①〜④に当てはめた際にする行動を紹介します。

①:今すぐに改善策について行動計画を立案して実行していく。評価基準も明確にして、どうなったら良いとするか、抽象的な評価ではなく細かく決めていく。
②:すぐに行動に移さないで、自分自身が調子の良い時に実行する。
③:まずは現実を受け入れてから対策を立て、今できる“建設的”な行動をする。
④:自身のメンタルヘルスに支障がでるので、気にしないで受け流す。

 

変えられる 変えられない
重要
重要でない

 

まとめ

個別性のある看護を実施するために、部分的評価ではなく多角的視点を持ちながらアセスメントをしていくことが求められ、目の前の現象だけを評価・判断せずに、背景には何があるのか、ここに至るまでには何があったのかに視点を置く必要があります。それは人間関係も同じであり、人の数だけ個性や価値観が存在します。自己で生まれた怒りは人に連鎖していき、負のスパイラルを発生しますので、できることから実践をして怒りによる負の連鎖を断ち切ってください。

 

訪問看護ステーション緑風
精神科認定看護師 渡邊 恭佑 様

友人が精神疾患を患い、地域でつらい思いをしていることを知り、地域を変えたいという想いから、2014年精神科認定看護師を取得。これまでの活動:病院、介護施設、看護大学、放射線技師学校での講義のほか、看護師・介護士・薬剤師・中学生などを対象に全国での講義経験がある。医療雑誌執筆中。

 

 

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