訪問看護の経営者必見!看護師の心をつかむマネジメント

看護師のマネジメント星多絵子

この記事では、看護師の雇用が初めての訪問看護経営者に向けて、看護師の心をつかむマネジメントについてご紹介します。看護師の心をつかむことで、自社で長く働いていただける関係づくりに役立ちます。

目次

代表としての考え方

①どちらかといえばタテ社会
一般企業ですと、社長をトップとするタテ社会で成り立っています。社長命令が絶対であり、こちらに従うことで、経営が成り立つという仕組みです。この考え方からすると、代表である社長の視点は高くなります。つまり、企業を例えるなら、ピラミッドの頂上から見下ろすことになり、裾野である現場から大きく遠ざかります。全体として経営状況を見るには良いのですが、現場との距離感をおぼえるのも事実です。

代表である社長が独りで経営を仕切ることになり、現場から意見を言いにくくなりがちです。

②業務効率化
一般企業、特に製造業ですと業務効率化として1工程何分でいくつ作ったというように計算ができます。しかし、医療・介護においては生身の人間をケアするため、製造業のような業務効率化が難しいです。訪問看護では、移動時間をいかに短縮するか、準備をどれだけ効率よく行うか、記録の手順をデータ化できるか、といった運用面での業務効率化が求められます。

③利益の獲得
経営としては、経費を節減して売上を伸ばし、利幅を確保したいところです。経費節減は、時には人の給与というところにまで、手を出さなければならないことも生じます。ただ、あまりにも経費節減ばかりを主張してしまうと、現場のモチベーションを下げることにつながります。

決算書や試算表などの数字のことが目先にあると、現場の状況から遠ざかってしまいます。あまりにも現場の意見を聞かないでいると、反発や離職の原因になります。

看護現場の考え方

①どちらかといえばヨコ社会
病院の病棟では、看護師は看護部長をトップとするタテ社会もあります。ただ、訪問看護のように少人数で運営するとなると、同僚の感覚で情報や感情を共有するヨコ社会の要素が強くなります。その方が、「報・連・相」がスムーズになるからです。訪問看護においては、役職も大事ですがそれよりも、利用者の情報をいかに的確につかみ、情報共有できることはより重要です。現場リーダーはこれらを総合して、決断します。

②利用者ニーズへの対応
先ほども述べた通り、訪問看護は生身の人間をケアします。そして、その利用者の希望はできるだけ叶えてあげようという想いを持っています。訪問看護は自宅であり、自由だからです。ある訪問看護師は、寝たきりで鼻から管が入り、口から飲食できないお酒の大好きな利用者から「お酒が飲みたい」と聞いていました。考えに考えて、鼻から入っている管からお酒を入れて飲ませてあげたそうです。利用者は満足して、その後、永眠しました。利用者の最期のケアを任されることの多い訪問看護師。彼女たちの想いは並大抵の覚悟ではないということです。

③利用者にとって良いことは何か
訪問看護師の根底にある価値観に、「利用者にとって良いことは何か」があります。利用者のためになることと分かったなら、知恵を出して工夫します。現場のリーダーも経営の経験がないことが多く、決算書や試算表などの数字を読み込むことは難しいとされます。先に利用者にとって良いことを行い、後から売上などの数字がついてくるという感覚の方が多いです。

考え方のズレが起こる原因

①価値観の違い
代表である社長は、決算書や試算表などの数字を見て経営を判断します。訪問看護師は数字を見る機会が少なく、現場で利用者をケアすることで精一杯です。代表のいう業務効率化が製造業のような価値観であると、現場の感覚とは全く異なってしまいます。何度も言いますが、訪問看護は生身の人間のケアをします。しかも、人はこちらの思うようには動いてくれません。さらにひとりひとり症状も、家族構成や家庭環境も異なります。仕事内容の均一化が難しいです。いかに、利用者の希望に沿い、利用者のためになるかということを訪問看護師は常に考えています。

②経営感覚の違い
代表である社長は訪問看護師を「社員」と捉えています。しかし、訪問看護師は国家資格を持った「個人事業者」として捉えた方が良いでしょう。資格や経験があることで、より良い条件の就職先に比較的容易に移ることができるからです。訪問看護事業所は、プロ野球選手を抱える球団だと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。個人の技術や能力、人柄といった面が、顧客である利用者やその家族に評価されるからです。

考え方のズレを無くすための解決策

①ボトムアップ
現場からの改善提案は、利用者にとって良いことであれば積極的に取り入れましょう。現場の意見を聞いてもらえると思えば、働くモチベーションの向上につながります。その結果、より良い訪問看護ができ、利用者やその家族の満足につながります。現場がどのように動いているか、実際に同行させていただいてはいかがでしょうか。私も、利用者やその家族に協力していただけるご家庭に、訪問看護師と一緒に訪問させていただきました。一緒に訪問することで、経営者の本気を見せることになりますし、改善点を見つけることもできます。現場と社長室を行ったり来たりするのが理想です。

 

②ひとりひとりとの対話
訪問看護師とできるだけ対話されることをお勧めします。ひとりひとりと丁寧に話し合うことで、利用者へのケアや熱い想いを聴かせてもらいます。話の腰を折らず、丁寧に聴く「傾聴」を心がけましょう。人は自分の話を丁寧に聴いてくれる人に信頼を寄せるからです。たとえ仕事への愚痴であっても、その中に経営や改善のヒントが隠されている場合もあります。長時間でなくてもよいので、こまめに声をかけることが大切です。

 

③価値観を大切に
訪問看護師から話を聴いたら、その価値観を大切にすることです。否定すれば、あちらからも拒否されてしまうからです。特に利用者へのケアの信念は特に丁寧に聴くことが必要です。大変な国家資格を合格し、人の命と向き合う看護師であるプライドはとても大切なものです。業務効率化についても、ケアではなく、移動時間の短縮や、準備の時短、記録のデータ化といった運営面での提案の方が受け入れやすいでしょう。これらの提案は利用者のためになるからです。利用者やそのご家族にとって時間通りに訪問してもらえると良い、記録に時間を割くならその分利用者のもとに行ってもらいたいというように、説明しやすいです。

まとめ

価値観の違いをとらえ、相手の価値観をよく知ることが大切です。訪問看護師ひとりひとりの意見はとても貴重です。できるだけ現場も見るようにしましょう。彼女たちの価値観を大切に、「傾聴」すると経営や改善のヒントが見つかります。まず、利用者にとって良いことは何かを問いかけてみてはいかがでしょうか。訪問看護師に、自分たちのことを理解してくれる代表だと信頼されれば、長く勤めてもらえます。

 

星 多絵子(ほし・たえこ)様

中小企業診断士(経済産業省 2007年登録)
メニースターズ代表(2015年10月より)
1973年6月24日埼玉県生まれ 帝京大学法学部法律学科卒業

医療機関での受付・レセプト点検から一般企業経理、社会福祉法人の内部監査人を経て医療・介護・福祉コンサルタントとなる。自治体病院・公的病院・医療法人といった経営形態を問わず、経営改革のアドバイスを行う。社会福祉法人での経験を活かし、介護・福祉の経営改革・改善も手がける。医療機関の経営改革では、延べ1500人のヒアリングに基づく人間観察・アセスメントも得意とする。医療機関の受付での患者観察および接遇に基づいた改善アドバイスも行う。

【執筆】
■ 「ドラッカーの聴診器」(じほう 「Japan Medicine」2010年10月~12月連載)
■ 共著:金融機関のための医療業界の基本と取引のポイント(経済法令)
■ 共著:医療機関との融資取引に強くなる本(近代セールス社)

 

 

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