訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#1
令和6年6月の診療報酬改定では訪問看護職員の処遇改善、人材確保に向けて訪問看護のベースアップ評価料が新設されました。今回の本コラムでは訪問看護を含め介護事業で深刻な人材不足について職場選びや離職率などから最新の動向を探っていきます。
看護職員の職場選び「仕事・家庭の両立」重視「友人・知人の紹介」での就職が最多
公益財団法人介護労働安定センターは7月10日「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の結果を発表しました。これは令和5年度介護労働実態調査の一環として、無作為抽出した全国1万8,000の介護サービス事業所に勤務する5万4,000人を対象に実施したもので、2万699人が回答しました。今回は、この中から看護職員の就職や転職に関する回答を紹介します。※回答者のうち看護職は10.8%
「現在の仕事(職種)を選んだ理由(複数回答)」では「働きがいのある仕事だと思った」が60.5%でトップでした。なお、介護職や生活相談員、サービス提供責任者、介護支援専門員など他の職種に比べて回答割合が最も高くなっています。このほか、看護職員の回答率が最も高かったのは「生きがい・社会参加」「給与等の収入が多い」でした。
「転職経験がある」のは74.2%で、全回答者の平均83.5%を下回りました。前職の業種は医療関係が61.2%で最も多く、前職も介護関係だったのは17.9%でした。
直前職が介護関係だった人に、その職場を辞めた理由を聞いたところ(複数回答)、最多は「職場の人間関係の問題」で39.7%。他の職種に比べて最も高い回答割合となっています。職場の人間関係の問題の具体的内容を聞いてみたところ(複数回答)、最も多かったのは「上司の管理能力が低い、業務指示が不明確、リーダーシップがなく信頼できない」でしたが、回答割合自体は多職種に比べて最も低くなっています。逆に多職種に比べて看護職の回答割合が最も高かったのは「仕事上の課題に関する上司や同僚との意思疎通・意見交換がうまくいかなかった」でした。
「現在の法人に就職した理由」では「通勤が便利」がトップ、次いで「仕事の魅力ややりがい」「職場の人間関係がよい」の順となりました。また、看護職員は「仕事と家庭の両立支援の充実」の回答割合が他の職種に比べて非常に多くなっています。看護職の確保・定着を図るには、この辺りをいかに充実させるかがポイントになると言えそうです。
「現在の職場に就職したきっかけ、ルート」では「友人・知人からの紹介」が最も多くなりました。また、看護職の回答割合が他職種に比べて高いものとしては「民間の職業紹介」「求人情報サイト」がありました。一方で「福祉人材センター」「求人・就職情報誌」「折り込みチラシ、新聞・雑誌の広告」は他職種に比べて回答割合が低くなっています。看護職の採用に際しては、利用率の高いツールを効果的に用いる必要があるでしょう。
介護職の離職率13.1%若いほど高く 介護労働安定センター調査
公益財団法人介護労働安定センターは7月10日、「2023年度介護労働実態調査」の結果を発表しました。この調査は、昨年10月に全国の介護事業所から無作為抽出した1万8, 000件に調査票を郵送する方式で実施したもので9,077件が回答しました。今回は、その中より「介護職の離職の状況や離職防止策」を中心に詳しく見ていきましょう。
従業員の過不足状況について「大いに不足している」「不足している」の回答の合計は訪問介護ヘルパーで59.7%、それ以外の介護職で34.7%となっています。ちなみに看護職員は16.3%でした。過去4年間は概ね19~20%で推移していましたので、看護職員不足は改善傾向にあると言えます。こうした状況は、訪問看護事業所の人材採用状況にも何らかの影響を及ぼしそうです。
介護職全体の離職率は13.1%となりました。傾向としては小規模事業所ほど高く、また民間企業は社会福祉法人や医療法人などに比べて高くなっています。年齢別では、29歳以下が20.4%と高くなっています。これについては、若いほど転職が容易であること、結婚・出産などのライフステージの変化が多いことなどが考えられます。このように、若い世代の定着率が悪いことに加え、若者全体の数の減少もあり、介護職の平均年齢は高く、65歳以上が13.6%を占めます。訪問介護ヘルパーに限定すると実に21.6%となっています。若い世代の確保は業界全体の大きな課題といえそうです。
離職率について「どのようなツールを活用して採用した人材か」を細かく見てみると、「ハローワーク」「有料職業紹介」「ネット・求人情報紙・チラシ等」はいずれも20%以上を超えています。一方で、「現職スタッフなどからの紹介」「学校などからの紹介」では低くなっています。また、「福祉人材センター」は、訪問介護ヘルパーに関しては離職率が非常に低いのですが、それ以外の介護職では20%を超えており、職種により相性の良し悪しがあると言えます。
介護事業者に「離職防止のため取り組んでいること」を尋ねたところ(複数回答)の「ハラスメントの無い人間関係が良い職場づくり」「上司との定期面談、意見交換会など職場内のコミュニケーションの円滑化」「残業減少、有給取得の推進、シフト見直し」「労働日や労働時間の柔軟化」「ミーティング等を通じた価値観や行動基準の共有」などが回答率60%で上位となりました。一方で「賃金上昇」は回答率50%、「介護ロボットやICTの活用」は20%台となっており、まだまだ取り組む余地は多いと言えそうです。
まとめ
2024年の介護報酬改定は1.59%のプラスとなりました。しかし、建築・運営費の高騰など介護事業者を取り巻く環境は厳しく、報酬プラス分を介護人材の処遇改善に回すことができない現実もあります。こうした中では、多様な働き方の推進など、直接的な給与増によらない処遇改善も重要となるでしょう。今回紹介した副業は、1人の人材が複数の介護事業所で働くことにもつながるため、業界の人材不足解消の一助になると思われます。
西岡一紀(Nishioka Kazunori) フリーライター1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。 2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。 2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。 |