訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#2

訪問看護の未来を見据えて:業界最新動向#2

本コラムでは訪問看護業界に関わる最新の動向を探っていきます。今回のテーマは8月6日に都内で開催されたシンポジウム「老人ホームにおける終末期ケアの取組み」についてご紹介します。

「看護師の果たす役割が重要」

訪問看護事業者も登壇したシンポジウム「老人ホームにおける終末期ケアの取組み」が8月6日、都内で開催されました。(主催:高齢者住宅新聞社) 

特別養護老人ホーム施設長(医師)、在宅医療を手がける医療法人社団理事長、高齢者住宅運営会社社長(看護師)、訪問看護事業者の部長(看護師)の4名。国際医療福祉大学大学院教授がコーディネーターを務めました。

まず、コーディネーターが「老人ホームでは、まだ『死』を否定的にとらえる傾向がある。もっと前向きに考えていく必要があるのではないか」と問題を提起しました。 これについて特別養護老人ホーム施設長は「施設は医療の場ではなく生活の場である。入居者の日々の健康管理が重要になるし、その面で看護師が果たす役割が大きい」とコメントしました。また訪問看護事業者の部長は、訪問看護ステーションが多い地域では老人ホームを含めた在宅での看取りの割合が高いというデータを示し、「地域における訪問看護の必要性は高まっている。しかし、資金繰り悪化などで倒産する事業者も多い」と現状と課題を説明しました。

看取りにケアの実施に際しては、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)が不可欠ですが、これについて在宅医療を手がける医療法人社団理事長は「ホーム入居直後に実施しても、本人もピンと来ていないことが多いので、実施する時期が重要。ただし『最期の時に病院への搬送を望むか』という点だけは、なるべく早く意思確認をすべき」とアドバイスしました。高齢者住宅運営会社社長は「私たち医療・介護職と本人よりも、本人と家族の方がずっと話をしやすい。本人が望む終末期を迎えられるかは、そこの関係性が重要」と言及しました。
これについては訪問看護事業者の部長も「本人と一番関わっているのは家族で次にヘルパー。そして、その意見を取りまとめているのがケアマネジャー。医療職はケアマネとの関係性がしっかり構築できているかが重要になる」とコメントしました。

また、特別養護老人ホーム施設長は「老人ホームなどの介護現場は、医師が頂点に立つ医療に比べて組織がフラットであり、各専門職が能力を引き出しやすい環境」と両者の違いを説明し、介護ではよりチームケア、多職種連携が重要になるとの見解を示しました。訪問看護事業者にとっても、より地域との結びつきが求められると言えそうです。

まとめ

現在では、高齢者住宅を選ぶポイントに「看取り率」「看取り体制の充実」があげられるほどに、終末期の医療・ケア体制の充実が必要です。しかし、提携医療機関や入居者の主治医が、積極的に延命治療をしないことや在宅で最期を迎えることに否定的で、当人が望む生活を送れないケースもあります。当人は、医師には「意見に反対できない」「自分の考えを言いにくい」という意識がありがちですが、看護師には親しみを感じる人が多いようで、考えも伝えやすいでしょう。当人が望む終末期を過ごすためには看護師、特に看護師が常駐していない高齢者住宅においては訪問看護師が果たす役割が大きいと言えます。

西岡一紀(Nishioka Kazunori)
フリーライター
1998年に不動産業界紙で記者活動を開始。
2006年、介護業界向け経営情報紙の創刊に携わり、発行人・編集長となる。
2019年9月退社しフリー転向。現在は、大阪を拠点に介護業界を中心に新聞・会報誌・情報サイトでのインタビューやコラム執筆で活動中。
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