(2020年度診療報酬改定 ⑥) 訪問看護の改定で気をつけたい項目

前回の記事では、訪問看護個別の改定項目10個の中で「評価が上がっている項目」についてご紹介しました。今回は算定要件が厳格化されている項目・評価が下がっている項目について注目してみていきましょう。

前回の記事はこちら
(2020年度診療報酬改定⑤) 10の改定項目/訪問看護の改定で評価される項目

 

令和2年度診療報酬改定の概要 P187の図より

精神科訪問看護の評価について

質の高い訪問看護の確保の中で、利用者のニーズへの対応として「精神障害を有する者への訪問看護の見直し」という項目があります。

 

精神障害を有する者への適切かつ効果的な訪問看護の提供を推進する観点から、利用者の状態把握を行うことが可能となるよう、精神科訪問看護基本療養費、精神科訪問看護・指導料及び複数名精神科訪問看護加算について、以下の見直しを行う。

1 .精神科訪問看護基本療養費及び精神科訪問看護・指導料について、訪問看護記録書訪問看護報告書及び訪問看護療養費明細書へのGAF尺度により判定した値の記載を要件とする。
2 .複数名精神科訪問看護加算について、精神科訪問看護指示書への必要性の記載方法を見直す。
3 .精神科訪問看護・指導料について、訪問した職種が分かるよう見直す。

 

今回の改定で最も大きく変わった項目ではないでしょうか。
まず、記載が求められている機能の全体的評定(GAF)尺度ですが、これは、「被評価者の全般的機能レベルについての臨床家の判断を記録するための指標」です。精神疾患に対する治療の計画を立て、治療の効果を評価し、また転帰を予測する目的で活用されています。すでに、精神病棟入院基本料や精神科在宅患者支援管理料の算定要件となっていますが、これが訪問看護に普及していないことが課題視されていました。4月からは利用者さんの心理的、社会的、及び職業的機能についてGAF尺度による評価点数訪問看護記録書訪問看護報告書及び訪問看護療養費明細書に記載することになりますので、気をつけてください。

*この記載については、2020年3月31日付の疑義解釈の中で「患者本人に訪問看護・指導を行った初日に判定すること」という解釈がありましたので、こちらも併せて参考にしてください。

 

【精神科訪問看護・指導料】

問143

区分番号「I012」精神科訪問看護・指導料(I)及び(III)にお けるGAF尺度による判定について、月の初日の訪問看護・指導が家族に対するものであり、当該月に患者本人への訪問看護・指導を行わなかった場合には、判定の必要はあるか。

(答)

GAF尺度による判定は必要ない。ただし、家族への訪問看護・指導でありGAF尺度による判定が行えなかった旨を訪問看護記録書、訪問看護報告書及び訪問看護療養費明細書に記録すること。

問144

区分番号「I012」精神科訪問看護・指導料(I)及び(III)にお けるGAF尺度による判定について、月の初日の訪問看護・指導が家族に対するものであり、患者本人には月の2回目以降に訪問看護・指導を行った場合には、いつの時点でGAF尺度による判定を行えばよいか。

(答)

当該月において、患者本人に訪問看護・指導を行った初日に判定することで差し支えない。

疑義解釈資料より

 

また今後、新たに精神科訪問看護基本療養費の算定を考える場合は、届け出要件になっている「国、都道府県又は医療関係団体等が主催する精神科訪問看護に関する知識・技術の習得を目的とした 20 時間以上の研修」の項目に、「GAF尺度による利用者の状態の評価方法」が追加されていますので、よく確認をしておいてください。

精神科訪問看護では、もう一点、「複数名精神科訪問看護加算について、精神科訪問看護指示書への必要性の記載方法を見直す」という項目があります。これは、複数名訪問が必要と医師が判断した場合の「理由」を明記しておくことが要件になったということです。

 

複数名訪問の必要性 あり・なし

理由:
1.暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる者
2.利用者の身体的理由により一人の看護師等による訪問看護が困難と認められる者
3.利用者及びその家族それぞれへの支援が必要な者
4.その他(自由記載)

 

これまでは「必要あり」というチェックだけで良かったところですが、この「理由」が指示書に記載されていないと、複数名訪問として算定ができなくなりますので、主治医としっかり連携を取り、指示書に明記していただくようにしてください。
この改定内容を「医師側が知らない」ということも考えられますので、丁寧に説明し、記載にご協力をいただきましょう。

令和2年度診療報酬改定の概要 P.196の図より

理学療法士等による訪問看護の見直し

訪問看護の提供体制の確保の中に「理学療法士等による訪問看護の見直し」という項目があります。前回の改定でもやや評価が見直された項目です。

 

訪問看護ステーションの理学療法士等による訪問看護について、以下の見直しを行う。

1 .医療的なニーズの高い利用者への訪問看護がより適切に提供されるよう、理学療法士等による訪問看護について評価を見直す。
2. 訪問看護計画書及び訪問看護報告書について、訪問する職種又は訪問した職種の記載に係る要件を見直す。

週3日まで
/1日につき
週4日目以降
/1日につき

基本療養費(I)

看護師 5,550円 6,550円
理学療法士等 5,550円 5,550円

 

週4日以上の訪問看護は必要な利用者さんについて、看護師が訪問する場合と理学療法士等が訪問する場合では、医療ニーズという視点で違いがあるという見方からの見直しとなっています。在宅での機能維持のために継続的なリハビリテーションはニーズのあるところですが、「訪問看護ステーション」としての訪問看護であることも忘れないようにしましょう。

 

明細発行業務について

今回の改定では、訪問看護ステーションは必須項目とはなりませんでしたが、診療所では
「公費負担医療に係る給付により自己負担がない患者(全額公費負担の患者を除く。)について、正当な理由がある場合でも、患者からの求めがあったときには、明細書発行を義務とする。」
となりました。これまでは有償であったり、システムに発行機能がなければ公布しなくても良かったものですが、「明細書発行機能が付与されていないレセプトコンピューター又は自動入金機の改修が必要な診療所が対応を完了する期間を考慮し、2年間の経過措置を設ける。」となり、2年以内にシステムを更新して発行ができるようにしなければならなくなりました。
現在、訪問看護ステーションは「努力義務」ですが、いずれ「必須」になる可能性もありますので、どのように対応するかを今のうちから考えておくことをおすすめいたします。

中央社会保険医療協議会総会(第434回) 個別事項(その10)について「総-2」p.122

<参考資料>GAF尺度

本ページの「精神科訪問看護の評価について」で解説した、GAF尺度による評価点数と機能に関する資料を以下に示しておりますので、ご参考にしてください。

<GAF尺度>
・GAF尺度は、心理的、社会的及び職業的機能について点数を付ける。
※身体的(又は環境的)制約による機能の障害を含めない。
・GAFは、被評価者の全般的機能レベルを最もよく反映する、0 ~100の値により評価する。
・GAF尺度の10点ごとの各範囲 (左記)の記述は、症状の重症 度に関するものと、機能に関するものの2つの部分から成り、得点を決定する際には、2つのうちのどちらか悪い方に最もよく適合する範囲を選択する。
・選択された10点ごとの範囲の中で1つのGAF得点を決めるために、被評価者の機能がその10点の範囲のどの値に該当するかを評価する。

100-91 広範囲の行動にわたって最高に機能しており、生活上の問題で手に負えないものは何もなく、その人の多数の長所があるために他の人々から求められている。症状は何もない。
90-81 症状がまったくないか、ほんの少しだけ(例:試験前の軽い不安)。すべての面でよい機能で、広範囲の活動に興味をもち参加し、社交的にはそつがなく、生活に大体満足し、日々のありふれた問題や心配以上のものはない(例:たまに家族と口論する)。
80-71 症状があったとしても、心理社会的ストレスに対する一過性で予期される反応である(例:家族と口論した後の集中困難)。社会的、職業的、または学校の機能にごくわずかな障害以上のものはない(例:一時的に学業に遅れをとる)。
70-61 いくつかの軽い症状がある(例:抑うつ気分と軽い不眠)。または社会的、職業的、または学校の機能にいくらかの困難はある(例:時にずる休みをしたり、家の金を盗んだりする)が、全般的には機能はかなり良好であって、有意義な対人関係もある。
60-51 中程度の症状(例:感情が平板で、会話がまわりくどい、時にパニック発作がある)、または、社会的、職業的、または学校の機能における中程度の困難(例:友達が少ししかいない、仲間や仕事の同僚との葛藤)。
51-40 重大な症状(例:自殺念慮、強迫的儀式が重症、しょっちゅう万引する)、または社会的、職業的、または学校の機能におけるなんらかの深刻な障害(例:友達がいない、仕事が続かない)
41-30 現実検討かコミュニケーションにいくらかの欠陥(例:会話は時々非論理的、あいまい、または関係性がなくなる)。または、仕事や学校、家族関係、判断、思考、または気分など多くの面での重大な欠陥(例:抑 うつ的な男が友人を避け、家族を無視し、仕事ができない。子供がしばしば年下の子供をなぐり、家庭では反抗的であり、学校では勉強ができない)
31-20 行動は妄想や幻覚に相当影響されている。またはコミュニケーションか判断に重要な欠陥がある(例:時々、滅裂、ひどく不適切にふるまう、自殺の考えにとらわれている)、またはほとんどすべての面で機能することができない(例:1日中床についている、仕事も家庭も友達もない)。
20-11 自己または他者を傷つける危険がかなりあるが(例:死をはっきりと予期することなしに自殺企図、しばしば暴力的になる、躁病性興奮)、または時には最低限の身辺の清潔維持ができない(例:大便をぬりたくる)、またはコミュニケーションに重大な欠陥(例:大部分滅裂か無言症)。
10-1 自己または他者を傷つける危険が続いている(例:暴力の繰り返し)、または最低限の身辺の清潔維持が持続的に不可能、または死をはっきり予測した重大な自殺行為。
0 情報不十分

参考:DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引き

 

これまで、診療報酬改定に関するお役立ち情報を①~⑥のシリーズで、お話してきましたがいかがでしたでしょうか?
改訂されたばかりの診療報酬ですから、今後も疑義解釈が順次出されてきます。訪問看護に関わる情報がありましたら、また皆様にご案内をいたしますので、ぜひセミナーやお役立ち情報のチェックをしてくださいね。

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2020年診療報酬改定は働き方改革のためのタスクシェア・タスクシフトやオンライン診療、関係各所との連携などが重点課題となり、地域包括ケアシステムを推進する観点から在宅部門、訪問看護に関わる診療報酬は高く評価されています。iBowお役立ち情報で2020年診療報酬改定について確認しましょう。

 

(2020年度診療報酬改定①) 前半の課題整理における「在宅部門」の内容

(2020年度診療報酬改定②) 訪問看護の改定項目<小児、看取りのニーズ、大規模化に期待>

(2020年度診療報酬改定③) 訪問看護の改定項目<理学療法士による訪問看護、集合住宅、明細書>

(2020年度診療報酬改定④) 10の改定項目/機能強化型訪問看護ステーションの要件

(2020年度診療報酬改定⑤) 10の改定項目/訪問看護の改定で評価される項目

 

今すぐ役立つ情報をぜひ、ご覧ください!

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