訪問看護の労務管理3〜訪問看護で就業規則は必要?就業規則の基礎と記載内容〜

訪問看護の労務管理(就業規則)

 

前回の記事では訪問看護の労務管理から「ステーションに合う人」を採用するポイントや採用後にトラブルが起こらないための注意点をご紹介しました。
≫前回記事 問看護の労務管理2~ ステーションに合った人材を見極めよう!人材採用のコツ ~

スタッフが増えると従業員が守るべきルールと従業員の労働条件をきちんと定める必要があります。
ルールを定めるうえで、就業規則は大きな役割を果たします。
企業によっては、入社時に分厚い冊子で就業規則を渡される、なんてこともあります。

一方、訪問看護の業界では「そんな冊子見たことない。」って方もいるかもしれませんね。
実は、就業規則は必要な場合とそうでない場合があります。
今回は、訪問看護ステーションを運営している方に向けて就業規則を定めるメリットと、作成方法について解説していきます。

目次

訪問看護で必要?就業規則とは?

「就業規則ってウチでは見たことないね。」ということを、訪問看護をされている方とのお話しの中で、耳にすることがあります。就業規則は 10人以上の従業員を常時雇用する企業※に作成義務がある(労働基準法第89条)のですが、10人未満の態勢で運営されているところでは作られていないこともあります。
※労働基準法89条にいう、「常時10人以上」に当たるかどうかは、「事業場ごと」に、「雇用形態を問わないすべての労働者」のうち「日常的に雇用している者」が「10人以上」いるかどうかで判断します。

就業規則とは会社で働く上でのルールを記載するものです。同時に職場で働く人が仕事をしやすいようにルールを整えることは、より良い職場の土台を整えることに繋がります。こういった目的から中小企業であっても80%以上の企業が作成しているのが現状です。

では、就業規則を定めるメリットを4つ挙げます。

1.会社の秩序を保ちやすくなります。
その会社で働く人すべてに適用されるルールをまとめているので、社員の行動の規範となります。働き方や、お金のこと、時間のことなど事前に方針をまとめておくことで、判断のスピードも変わってきます。

2.トラブルが起きたときの対処があります。
解雇に相当するような規律違反を行った従業員の対応や、業務命令を拒否する従業員への対応などは就業規則に則って行うのが一般的です。罰則や解雇の基準は具体的に記載することで、理由付けがはっきりと出来るようになります。こういったことが必要にならないのが一番良いのですが、何かトラブルが起きたときに「就業規則がないから罰せられない。解雇できない」といったことになってしまっては、ステーション全体の運営にも影響が出てきてしまいます。

3.会社の利益を守りやすくなることが挙げられます。
個人情報を扱うことも多い訪問看護において、情報漏洩は会社の信頼度に直結します。また、昨今は人材の流れも活発になってきているので、退職後に情報漏洩が起こるリスクもあります。仕事の中で知り得た機密情報を普段の仕事の中や退職後にどう扱うかまとめておくことは、会社の利益や利用者様を守ることにもつながります。給与の支払いなどについても記載することで、従業員とのやり取りがスムーズに進むでしょう。働き方改革を求められている世の中でもありますので、産休や育休といったことにも触れておくことが重要です。

4.企業として責任を果たしていると示すことができる点があります。
コンプライアンス(法令遵守)という言葉も、かなり浸透してきた印象がありますが、企業の運営において社員のモラルは大切です。パワハラや、セクハラといったことに対する罰則はもちろんですし、ブラック企業化しないための予防にもなります。

何が書かれているの?気になる就業規則の内容

では、具体的に就業規則にはどのようなことを書いていけばよいのでしょうか。
就業規則の内容は、おおまかに分けると必ず書く項目(絶対的必要記載事項)ルールがあるときだけ書く項目(相対的必要記載事項)があります。

絶対的必要記載事項は以下のようなものがあります。

  絶対的必要記載事項  
・労働時間に関する内容

労働日の始業、就業時刻
休憩時刻や休憩時間とその与え方
休日や休暇(有休や産休、冠婚葬祭などの特別休暇)

・賃金に関する内容
賃金体系や決定方法
支払日や昇給について

・退職に関する内容
退職手続きや定年の規定、解雇の理由など

 

相対的必要記載事項は企業の特性によっても変わりますが、一般的なものを挙げると以下のようなものがあります。

 相対的必要記載事項  

・退職手当の条件や支払い方法
・賞与や最低賃金に関する内容
・費用負担に関する内容
・安全衛生に関する内容
・職業訓練に関する内容
・労災や業務外のケガ、病気の扶助に関する内容
・能力開発に関する規定
・表彰に関する規定

相対的必要記載事項は働き方に合わせて追加されることもあります。
最近では「テレワークに関する規定」などを加える企業も多くあります。

モデル就業規則を活用する際はココに注意!

新たに「就業規則を作りたい」となったとき、何もないところから始めると、何から手をつけていいか分からなくなることもあります。社労士や弁護士に依頼する方法もありますが、費用がかかるので何とか自前(社内)で作りたいと考える方も多いでしょう。

そういったときはモデル就業規則を参考に作成するのがおすすめです。
モデル就業規則とは厚生労働省が無料で配布している就業規則のテンプレートのようなものです。
(※厚生労働省HP モデル就業規則について)

基本的なことが押さえられているので、これを元に作成すると比較的早くまとまるでしょう。
しかし、広く一般的な内容でとどめているため、流用には注意点があります。

 

・就業規則の適用範囲を明確にする
正社員やパート、アルバイトなど、企業で働く労働者の区分は幾つかありますが、モデル就業規則では、その範囲が曖昧なため、しっかりと適用範囲を明記しておく必要があります。

・休職事由と期間の規定を明確にする
モデル就業規則では欠勤が一定以上続く場合といった限定しにくい表現となっているため、休職できる理由と期間をしっかりと明記しておく方が良いです。

・パートの有給休暇について追記する
モデル就業規則にはパートの有給休暇について記載がありません。
正社員と同じように、規定を検討して明記しておきましょう。

・副業についての取り決めを明確にする
モデル就業規則では従業員が自営業者になることを禁止した内容になっていないため、副業に関しては曖昧な状態になっています。会社の方針に合わせて取り決めをまとめておきましょう。

・就業規則違反時の懲戒を規定する
規則は明記していても違反時の懲戒を決めていない部分も多くあります。
罰則が必要と考える項目に関しては見直しが必要です。

まとめ

より良いステーション運営を行うためにも、最初にルールを決め、明確にしておくことで、後からスタッフとのトラブルを避けることもできます。また、会社の判断で社員に何かを行う場合(解雇など)、“就業規則に定めている”ということが会社の行為の「根拠・証拠」となります。今は就業規則がないとしても、事業が拡大するにつれ会社のルールは必要になってくるでしょう。
就業規則を整備して、業務を効率的に回せる環境を整えておきましょう。

また、事業を運営していく中で、働く環境を整えるためにもスタッフの勤怠管理も必要になります。次回は「勤怠管理」について勤怠管理の必要性や管理していく項目についてご紹介します。
≫次回記事 訪問看護の労務管理4~勤怠管理とは?勤怠で管理しなければいけない項目とその方法~

iBowお役立ち情報では、今後も役立つ情報をお伝えしていきます。
ぜひ、次回の記事もチェックしてください。

 

【訪問看護の労務管理シリーズ】
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