訪問看護の労務管理6~給与計算ってどうやるの?押さえておきたい給与の計算方法と注意点~

訪問看護

前回の「訪問看護の労務管理5〜福利厚生で従業員の満足度向上を目指す!知っておきたい福利厚生の基礎知識~」では、訪問看護の経営者の方に向けて、なぜ福利厚生が必要なのか、福利厚生を充実させるメリットや注意点を紹介しました。

福利厚生だけでなく、経営者と従業員とは、賃金による契約を結んでいます。
給与は労働の対価として支払われる重要なものですので、給与計算は大変な業務であるものの、従業員の労働の対価である給与計算でミスは許されません。もし、ミスや遅れがあれば従業員からの信用を失ってしまう可能性があります。給与計算は、基本給、各種手当、控除などさまざまな要素があり、はじめて給与に関わる方は複雑と思いがちですが、流れなどがわかるとスムーズに進めることができます。

今回は、はじめて訪問看護を経営する方に向けて、給与計算の方法と流れ、必要な書類など、給与計算を行う際の注意点を紹介します。また、給与計算にも便利な機能を備えた訪問看護専用の勤怠管理サービス『iBow KINTAI』も併せて紹介します。

目次

知っておきたい!給与の計算方法と流れ

複雑だと感じている給与計算も計算式にするととてもシンプルです。

給与計算:(総支給額)(控除額)=差引支給額(手取り額)

例えば、総支給額30万円で控除額7万円の場合、総支給額30万円から控除額7万円を引いた23万円が差引支給額(手取り額)となり、従業員の口座に振り込まれることになります。

 給与計算の流れ 

1.総支給額の計算
2.控除額の計算
3.差引支給額の計算

の順に計算していきます。

 

総支給額の計算 

まずは、総支給額を計算していきましょう。総支給額は下記の計算式で表すことができます。

総支給額=基本給+時間外手当+各種手当

■基本給
基本給とはその名の通り、基本となる給与のことです。手当などを含まない、毎月決まった金額です。多くの会社では、年齢や勤続年数、職種などで決まっています。基本給は、従業員の同意なく一方的に減額してはいけないという原則が定められています。

■時間外手当
時間外手当は、※労働基準法が定める1日8時間、1週間40時間の法廷労働時間以上の労働をした場合などに発生します。(※参考:労働基準法 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei07.html)時間外手当の計算式は下記の通りです。

時間外手当=時間外労働時間×1時間あたりの賃金×割増率

割増率については、労働基準法で下記のように定められています。

【割増率】

項目 内容 割増率
残業 1日8時間以上の労働または、1週間で40時間以上の労働 25%以上(但し、月60時間以上の残業は50%以上)
深夜勤務 22時から5時の間での勤務 25%以上
休日出勤(法定休日) 法定休日での出勤 35%以上
休日出勤(法定外休日) 法定外休日での出勤 0%

※最小値の設定のため、企業により数値の設定は可能(例:時間外労働の割増率を30%にすることも可能)

割増率は足し合わせになるため、1日8時間以上かつ22時以降の深夜勤務をしている場合は、残業の25%以上と深夜勤務の25%以上を加算するので、割増率は50%以上になります。休日出勤は、法定休日か法定外休日かによって対応が異なります。法定休日の場合は、休日出勤している時間全てが割増率35%以上の対象となり、法定外休日の場合は、通常の出勤日と同じ扱いで割増率は0%ですが、休日に出勤したことにより、1週間で40時間以上の労働となる場合は残業とみなし、割増率25%が適応されます。

1点注意が必要なのは、法定休日は法定労働時間がないため、8時間以上の労働になっても残業となることはありません。但し、勤務が深夜までに渡った場合は深夜勤務との重複にはなります。ここでいう法定休日とは、労働基準法で定められた1週間で1日もしくは4週間で4日の休日です。訪問看護など、シフト制で働く看護師の場合は、4週間で4日の休日で設定し、シフトでの休日が法定休日にすることがほとんどです。4週間の計算を明確にするために、起算日は決めておく必要があります。法定外休日は、法定休日以外の休日です。

■各種手当
時間外手当の他にも、通勤手当や役職手当、家族手当など各種手当が支給されます。通勤手当に関しては、支給額によって所得税の課税対象になることがあります。電車やバスなど公共交通機関を利用している場合は月15万円まで、マイカー通勤の場合は4,200〜3万1,600円までが課税対象外です。通勤手当以外の手当は、基本的に課税対象として計算します。

以上の基本給、時間外手当、各種手当の計算ができると、下記の数式で総支給額の計算をします。

総支給額=基本給+時間外手当+各種手当

 

控除額の計算 

給与を支払う時には、総支給額から税金や保険料を差し引いて振り込みをします。その差し引く金額が控除額になります。税金は、「住民税」「源泉所得税」 に分けられ、住民税は地方に納める「地方税」で所得税は国に納める「国税」です。納める先が違うことから、その税額も別々に計算され別々に徴収されています。また、所得税の中でも源泉所得税は、企業が従業員や報酬を受け取る方の源泉から徴収し、ご本人に代わって納める所得税のことです。保険料は、「健康保険料」と「介護保険料」「雇用保険料」「厚生年金保険料」「労災保険」に分けられます。労災保険料以外の保険料は会社と従業員双方が負担します。労災保険料のみ、全額が会社負担となります。

 税金の確認方法 

■住民税
従業員が支払う住民税は、市区町村役場から郵送されてくる「住民税特別徴収税額の通知書」を確認すれば金額がわかります。その通知書に、控除すべき納税額が記載されているので、記載通りの金額を総支給額から差し引きます。

■源泉所得税
源泉 は、他の控除される税金や保険料と異なり、上記の税金や保険料を控除した金額を用いて計算します。被扶養者がいる従業員の場合は、給与額からさらに扶養控除として一定金額が控除されます。所得税に関しては、国税庁が毎年公表している源泉徴収税額表を用いれば、給与額から納税額を確認することができます。源泉徴収税額表では、従業員の契約形態や家族構成で「甲」「乙」「丙」のグループに分けられています。給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出している従業員は「甲」、提出していない従業員は「乙」、日雇いなどの従業員は「丙」に該当します。

 

 保険料の計算方法 

■健康保険料
健康保険は、従業員と事業主とで折半して負担します。そのため、従業員の個人負担額は下記の数式で計算します。

健康保険料(個人負担)=標準報酬月額×保険料率÷2

標準報酬月額は全国健康保険協会のホームページで公開されている健康保険・厚生年金保険の※保険料額表で確認できます。保険料率は都道府県ごとに異なるため、都道府県ごとに確認が必要です。
例えば、大阪の場合、令和3年8月時点では、令和3年3月から適用されている健康保険料率は、介護保険第2業被保険者の場合は12.09%、それ以外の場合は10.29%です。大阪で働く28歳の人の4〜6月の平均給与が23.5万円の場合は、標準報酬月額は24万円ですので、23.5万円×10.29%÷2=1万2,090円が健康保険料となり、控除が必要です。(※参考:全国健康保険協会のホームページ  https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r03/r3ryougakuhyou3gatukara/

■介護保険料
40歳以上になると、要介護状態や要支援状態になった時に介護サービスを受けられる「介護保険」も納めることになります。65歳以上の第1号被保険者と、40歳以上65歳未満の第2号被保険者に分けられ、それぞれの計算方法や納付方法、給付される条件が異なります。40歳から64歳までの被保険者は、さらに介護保険料を計算しなければいけません。計算方法は健康保険料と同じですが、保険料率は全国一律で1.73%です(平成31年度の場合)。
65歳になると老齢基礎年金を受給できるので、給料から健康保険料が控除されていても介護保険料は徴収されず、原則として老齢の年金から徴収されます。給与計算の際は、65歳の誕生日の前日が属する月から介護保険料を徴収する必要がなくなるので注意してください。

■雇用保険料
雇用保険料も健康保険料と同様に従業員と事業主とで分けて負担し、従業員が負担する保険料は総支給額から控除が必要です。負担割合は、従業員と事業主とで異なり、厚生労働省が毎年発表する雇用保険料率を元に計算します。雇用保険料の計算の数式は、下記となります。

雇用保険料=総支給額×雇用保険料率

例えば、※令和3年度の雇用保険料率は、0.9%です。そのうち、従業員負担は0.3%で、事業主負担は0.6%です。総支給額が25万円の場合、25万円×0.003=750円となり、総支給額から控除が必要です。(※参考:厚生労働省 令和3年度雇用保険料率について https://www.mhlw.go.jp/content/000739455.pdf)

■厚生年金保険料
その他保険料と同じく、標準報酬月額をベースに計算します。厚生年金保険料は平成29年9月より一律に固定され、令和3年3月分から適用される保険料額表では、厚生年金保険料率は18.3%です。総支給額が25万円の場合、25万円×0.183=4万7,580円となり、従業員の負担額は半分の2万3,790円です。そのため、従業員の負担額を総支給額から控除する必要があります。健康保険料と厚生年金保険料は保険料額表に全額と折半の金額が記載されているため、そこを見て控除もできます。
(※参考:全国健康保険協会のホームページ https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r3/ippan/r30213tokyo.pdf)

差引支給額の計算 

上記の総支給額と控除額がわかれば、下記の数式のように総支給額から控除額を差し引いて、差引支給額(手取り額)が計算できます。

差引支給額(手取り額)=(総支給額)ー(控除額)

給与計算に必要な情報と4つの必要書類

給与計算に必要な書類などは、事前に確認して準備しておく必要があります。

■総支給額計算に必要な情報

・タイムカードなど勤務時間がわかるもの
タイムカードや勤務時間を入力されたExcelデータなど、勤務時間がわかるものが必要です。残業時間や休日出勤などを計算するために使います。残業の計算では、1週間で40時間以内でも1日に8時間以上の労働している日がある場合は、残業扱いになります。

■控除額計算に必要な情報

・扶養控除等異動申告書
従業員の最新の家族構成がわかるもの。扶養家族の人数により、源泉所得税が異なるため、事前準備が必要です。

・源泉徴収税額表
最新年度分を国税庁のホームページから確認できます。従業員の源泉所得税を確認するために必要な資料です。

・住民税特別徴収税額の通知書
従業員が住んでいる各市町村役場から郵送で送られてきます。住民税控除額を確認するために準備が必要です。

・社会保険料の納入告知書(日本年金機構から届きます)
日本年金機構から届く納付書です。社会保険料を事業主が納付する際に使用します。

給与計算を行う際はココに注意!

・入力ミス・計算ミスに注意
給与計算で最も注意したいのは計算ミスや入力ミスです。数字の打ち間違えなどでも、従業員の賃金や税金に大きく関わります。賃金なら過不足が発生し、税金なら追徴課税が発生します。どちらの場合も、従業員と事業主のどちらにとっても大きな問題になる可能性があります。人が行う作業なのでミスが発生する可能性は0%ではありません。ダブルチェックをするなど、慎重かつ入念に計算や確認をする必要があります。

・法令の改正に注意
雇用保険料や社会保険料は、法令の改正により保険料率が変わる可能性があります。毎年、確認をすることをおすすめします。常に最新情報をキャッチできるようにしておくことが、給与を支払う時にミスを防ぐことにつながります。

給与計算にも便利!訪問看護専用の勤怠管理サービス『iBow KINTAI』

訪問看護

訪問看護など24時間業務を行う業界では、夜勤などで時間外手当などの計算が多く発生し、給与計算に多くの時間が必要になるかもしれません。いかに、給与計算の業務を効率よく行うかが、看護の業務などその他の業務に取り組む時間を確保できるかにつながります。

弊社の『iBow KINTAI』では、簡単に出退勤の打刻ができ、打刻した時間から残業時間や休日のオンコール出勤を含めた勤務時間を自動で計算してくれます。そのため、給与計算では時間外勤務の時間を一目で確認でき、効率的です。給与計算の業務効率を図ることで、訪問看護ステーションのより円滑な経営ができるようになります。無料版と有料版の2パターンをご用意しています。有料版には打刻時住所情報GPS記録などの機能があります。まずは無料版でお申込みいただき、有料版に切り替えることも可能ですのでまずはお問い合わせください。

>『iBow KINTAI』についてのお問い合せこちら

まとめ

今回は給与計算の方法と流れや給与計算に必要になる書類など、給与計算を行う際の注意点についてお伝えしました。給与計算は複雑と思われがちですが、方法と流れをつかむことでシンプルに計算することができます。ただし、計算ミスや入力ミス、法改正の確認不足などは経営者と従業員のどちらにとっても大きな問題になる可能性があるため、給与計算は正確さが求められます。

iBowが提供するクラウド勤怠管理サービス『iBow KINTAI』では、出退勤の打刻から残業などの給与計算に必要なデータを自動計算してくれるので、給与計算をより正確に効率よく行うことができます。 まずはお気軽にお問い合わせください。

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次回は、従業員が退職した際に会社が行う必要な手続きについてお話しします。ぜひ、次回の記事もチェックしてください。今後も役立つ情報をお伝えしていきます。

 

 

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